※次ページよりR18/性描写
 (pass=Info)



今日は朝まで飲みたいんだとグダる客をイトリが放り出したのは、遊びに来る予定である友人達の為。せっかく呼び付けたのに他の客がいたら何も楽しめないと、早々に掲げたCLOSEはウタとビビだけを招き入れる。

ヨモの姿はない事から、この三人で決まりのようだ。

「メールで元気だって言ってたわりには顔色悪いじゃない」

「最近は喰べてないしね。そろそろムリヤリにでも喰べさせないといけないかなぁ」

「やーね元ヤンは。ほらビビ、これでも飲んでな」

「うん。」

ぽよん、とビビの手で揺れたのは太っちょな献血バッグ。真空状態で清潔が保たれている。

ビビが飲む前にと、それを取り上げたウタが貼り付けられたラベルを確認する間、ビビはただ大人しく待った。

「鉢男はどうよ?」

「げんき。イトリも?」

「あたしゃいつも元気だよ。鉢男には負けるけどねぇ〜」

採血日時は今日で、新鮮なもの。イトリがビビの為に用意した人間の血液だ。

あとはイトリが悪戯をしていないかの確認。チューブを途中から引き千切って中身の血液を口に含む。新鮮な血液だ。血酒ではない。このチェックを終えて、ようやっとバッグはビビの手へ渡される。

「はい。飲んでいいよ。…優しく持ってあげて。血、出ちゃうから」

チューブを指先で潰したまま渡したのはビビがバッグを揉むとわかっていたから。案の定柔く揉まれたバッグはチューブを勢い良く上っていった。ウタが先を潰していなければ溢れていた事だろう。

「グラスいるかい?」

「いいよ、割ったら怪我するし。もう上手に飲めるよね」

「うん。」

まるで片翼を失った小鳥へそうする様に、下から大事に包んで持ったのを確認して、ウタは支える手をゆったりと離した。

ちゅう。
赤い赤い色が、チューブを通る音がする。

「ビビちゃんや。飯喰わんの?お?」

「うん。へいき。」

「そんな事言ってると怖いオニーサンに無理矢理喰わされるんだからね?」

――ちゅう、

「怖いオニーサンって?」

「アンタだよウーさん」

「怖くないよ。ね、ビビ」

「ね、」

「押さえつけられて肉喰わされんだよ?怖くないの?」

「こわい。」

「ほらウーさん聞いたかい?怖いってよ」

「怖くしない程度に、力尽くで喰べさせる。これなら平気?」

「うん。」

「すぐ“うん”って言うのやめなビビ」

眼球のおやつを摘まむウタの手を目で追いながら、こくんと頷いたビビにイトリは深い深い溜息をつく。

ビビはいつもそうだ。条件反射の様に頷く。うん、と頷く。肝心な時は、うん、と言ってくれないくせに。食べる?と差し出した労わりの眼球は、案の定うん、とは言ってもらえなかった。

女同士で腕を絡めながら身を寄せれば、のっぺりとしたメールの文字では感じられない温かさと柔らかさに触れられる。よっこいしょ、と椅子ごとビビへ寄せた。

「イトリちゃん。」

「なんだいビビちゃん」

「あったかい。」

「そうだねぇ。温かいねぇ」

冬の小鳥みたいに身を寄せてこしょこしょと話す。額を寄せたビビの表情が本当に柔らかくて、イトリもまた同じ様に、眉を下げて柔らかく笑った。

「ビビ、アンタには幸せでいて欲しいわ」


――どうか幸せで

どこかで聞いたその言葉は、いつかの日に残酷な結末を齎した鍵。そうした風が継ぎ接ぎの胸を撫でる一瞬に、ウタはビビの身を引っ張りイトリから引き剥がす。

「でたなバッキー」

「ぼくは寂しがりなだけ」

すっかりウタの片腕に捕まったビビへと手を伸ばす。この二人が幸せだったらいい。誰にも引き裂かれること無く、こうして目の前で寄り添っていてくれたら。

指先を絡めたままグラスへ唇を寄せるイトリが、いつもの調子で呟いた。

「こういうツマミもいいモンだねぇ」






太陽こそ昇っていないものの、時刻は早朝になる。あのままダラダラと飲んで、Helter Skelterを出た頃にはもうこの時間だ。

ちゃんとゴム買って帰れよ!そう大声で見送ってくれたイトリは相当に酔っ払っていたと思う。まだあるからいいよ、と返しはしたが、血酒の瓶を片手に飛び跳ねるイトリには聞こえていなかったかもしれない。あのテンションのまま一人になったイトリは飲み直しでもしているのだろうか。

マフラーを鼻まで引き上げたウタがビビの手を引いて暗い道を歩く。壁を挟んだ向こう側、肉を引き千切る様な水気の多い音は捕食の音だろう。壁へ目を向けたビビの足が止まりかける。

「邪魔しちゃダメだよ。おいで」

繋いだ手を引き寄せて窘めれば、つんのめってよれる身体。まるで、犬の散歩でもしているかの様。

冷たい風が身体に障る前にと自らのマフラーをビビに巻き付けて、つんとした鼻先を覆ってやる。

「?」

「リードの代わり」

「ウタ。さむいなる?」

「うん。だからもっとくっついて?」

イトリの言葉に擽られたわけでは決してないが、こういう寒い日は早くベットに潜ってじゃれ合いたい。

――ビビが寝ないようにしないと


ウタは少しだけ、ほんの少しだけ帰路へ就く足を早めた。



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