現在ふに禁3日目。2日目に無理矢理ふにって脳内カウンターが0に戻った為、総合して5日目になる。

もう5日。5日も満足にふにふに出来ていない。唯一ふにれるのはベッドでじゃれ合ってる時だけ。挿れながらだとビビは何されてもよくわからないから。もう擽ったくなんかない筈なのに、緩まないガード。これでは流石のウタも堪える。堂々とふにふにしたい。

今もビビを膝の上に押さえ付けて作業してはいるが、その胸には相変わらずの分厚い生地。ブラウスの上からオーバーバストのコルセットで押さえられている。それもウタからしたら最悪のバスクタイプ。胸元を弄れば金具が触れるし、このバスクさえ外せばという考えが何よりの敵だ。

当然、触っても柔らかさはない。これっぽっちも。硬いボーンと、分厚い生地と、きっちりしっかりと閉ざすバスクの感触だけ。はち切れそうな程ぱつんぱつんに引っ張られているブラウスの釦、その隙間に指を突っ込んでぷにぷにするくらいしか出来る事がない。

溜まっているわけではないけれど、変に欲求不満。

ウタに背を預けるビビの胸、その頂をコルセットの上からとんとん、とノックする。

「ココ、きゅってされるの…嫌?」

「うん。」

「ふにふには平気?」

「うん。」

「…じゃあコレ、壊してもいい?」

「や。」

「………ゆっくり脱がせるから、ふにふにしたいな」

「や。」

「もー…」

懐柔されてくれない。うん、と言ってくれない。少し期待した所為でつらい。マチ針を放ってだら〜っと抱き締め、お店閉めてベッド行こうかなと考えるが、しかし、それだともっとガードが固くなるリスクがある。下手したら触る事すら禁止されて、イトリの家に逃げ込まれて、それでそれで。

「…ビビさん、」

「や。」

「もうそれ禁止…」

「や。」

珍しい事ではないが、一日中腕の中に軟禁されて暇を持て余しているビビは、両手でスマートフォンをいじくりウタを蔑ろにする。ブラウスの隙間から胸元を擽られても首筋を噛まれても、ずっとスマートフォンに夢中だ。

覗き込んだメール画面にはずらりと並んだ受信履歴。予想通りイトリとのやり取りが映されていて、イトリさんは構ってもらえていいなと唇を突き出す。

“とにかくイヤって言っとけば問題ないって。フルシカトだよビビ、がんばれ!”

開かれた新着メール。差出人はイトリ。とんでもない事が書かれており、思わずウタは指に引っ掛けて遊んでいたバスクを1つ弾き飛ばした。金具ごと。これで壊したビスチェ、コルセットは5個目。毎日壊している。

だめだよ、と宥める様にウタの手を優しく握るビビはもう慣れていて、片手でもたもたと指をスライドさせてフルシカトの意味を調べている。

どうりで。どうりでビビがイヤイヤ言うわけだ。こんなに反抗的なのは全てイトリの仕業。

「?」

シカトを覚えられてしまう前にと画面を覆い隠す掌。タトゥーの落書きがされた手を見て首を傾げ、そしてウタを振り返った。

もう一度戻した視線の先で、ビビのイトリが取り上げられる。玩具を取り上げられた犬の様に視線で追うビビは、身を捻ってウタに操作される端末の背をじっと見つめてぱちりぱちりと瞬き。送り終わった後に履歴でも見ているのかメールバトルでもしているのか、なかなか返して貰えないイトリとの繋がりを強請ってスマートフォンを支える指を甘噛みしたり鼻先で小突いたりとしてみる。しかし冷んやりとした顔で画面を睨むウタはビビの腹を支えるだけでイトリも反応も返してくれない。

はやく、と急かす様にウタの服を引く。

「なに」

「や。」

次言ったらこれ、壊すよ。の意味を込めてスマートフォンに力を加えればミシミシと嫌な音を立てる。それを見てビビはもう一度「や。」と言った。何も伝わっていなくて深い溜息。

とにかく嫌がる。イトリの指示通りなんでも嫌がる。イトリを味方につけて、むっ、と強気なビビ。でもウタがつんっと唇を尖らせるといつもの様にあむ、と吸い付く。これにまで嫌がられてたらお仕置き決定だった。なのにたった一つのキスで懐柔させられた手は力を緩めて悪魔の端末を解放してしまう。甘やかしている自覚はある。だがどうしようも出来ない。男って単純だから。

イトリさえ取り戻せばさっさと身を戻して端末を構い始めるビビは新着のメールを開いてじっと眺める。
肩に顎を置くウタに頬をくっ付けながら指差す画面。“娼婦”の文字。

「ウタ。なに?」

「……かたつむり」

「かたちむり。」

か、な、ち、む、り
か、た、つ、む、り
検索画面に打ち込まれたその誤字をウタの指先が訂正し、検索される。
画像を眺めるビビが数度頷き1枚だけ保存して、またメール画面に戻った。あの頷きは、一時期虫かごで飼った事があるのを思い出したのだろう。

次の検索対象は“ダボ”の文字。

ダ、ボ
検索される前にウタが消す。

ダ、ボ
また消す。

「?」

不思議そうにウタを見やるビビの胸元、ブラウスの隙間から遊ぶウタの中指がネックレスのプレートを鳴らす。谷間を渡り歩く指先はそのままに、また画面にはダボと打ち込まれた。そうして、検索される前に消される。

「ビビは覚えてるかなぁ…。月山くん」

「?」

「忘れちゃった?」

「床?」

「そうそう。…彼のあだ名だよ、ダボ」

「あだな?」

「名前のこと」

ふーん。
取り消された検索。

ウタにより “ビビは娼婦じゃねーんだぞ!このダボ!”から “ビビはかたつむりじゃねーんだぞ!この月山!”に翻訳された本文。結局調べてもよく理解出来ずに終わった内容に、ビビは画像添付にかたつむりを選び“イトリすき”とだけ添えて送信した。

完了と同時、ウタの手によって落とされてしまった電源。ボンパンのポケットに隠されるスマートフォンを追うのは視線だけで、イトリから教わった嫌々作戦は待機しているもよう。

悪戯な指が通り過ぎる度に谷間を滑るネックレスのプレートが擽ったくて、ビビの手によりブラウスの外側に追い出された。刻印のHySy。即ちウタの所有物。

ぱち。
外される一番上のバスク。

「?」

はずしちゃうの?とでもいう様に頬を擦り合わせたビビに、ウタの理性は試されている。2番目のバスクを撫でる指。ビビはその手元を見下ろして首を傾げた。宥める様に、じゃれ付く犬を撫でる様に、ウタの手を撫で摩って。

「や?」

「や。」

「…だめ?」

「だめ。」

「ん…」

我慢我慢。外してしまったバスクをもう一度引っ掛ける。ぎちりと音をたてる金属が一生懸命胸を支えていて、その調子でこっちの理性も支えて欲しい。

その手を見届けて、肩越しにはむはむと唇のセグメントリングを弄んでいたビビが媚びる様に唇を押し付ける。ウタの表情を窺って、もう一度。もじもじと両手で胸元のプレートをいじくりながら内緒話の様にこしょこしょっと言葉を落とした。

「ビビのチェスト…」

「うん、」

「バスタブ。」

ちゅ、ちゅ、と啄ばみ合う間の内緒話。チェスト、バスタブ。 甘ったるい蜜を交換する様に舌を絡ませたウタがどういう意味か暫く考え込み、あ、わかったと甘さを飲み下した。

「……猫足にしてってこと?」

「、うん」

チェストをバスタブと同じ猫足にして。
言いたい事が伝わって離れた唇。ふう、やっとつけた一息にビビの胸が深く上下する。ウタの甘さが残る舌はじんわりと濡れて言葉が紡ぎにくく、また唇を寄せて内緒話。

「こうかん。」

「交換?」

「これ。」

コレ、と示されたコルセット。
つまり、

「……交換条件?」

「だめ?」

「…いいよ。もうイヤって言わない?」

「うん。」

「ぼくと約束、できる?」

「うん。」

そんな事、ウタなら30分とかからずに出来る。ダメなわけがない。交換条件でなくてもやってあげるくらい。

ただビビがこんな事をふっかけてくるなんて、これも間違いなくイトリの入れ知恵だ。既に着ける理由がなくなったのにも関わらずビビの胸を被うコルセットも嫌々作戦も交換条件も、悪いのは99%イトリ。1%は従ったビビ。百歩譲って自分はダボだったとして、イトリも大概ダボだとウタは面と向かって言える。ダボはどっちと中指を立ててやりたいくらいだ。

釣り合いのとれていない条件でもビビは嬉しそうに、安心した様によかったと胸を撫で下ろした。損をしている事にも気付かないで。自分の体を安売りしている事にも気付かないで。

やっと終わりが見えたふに禁地獄にウタもまた、心の中の中指を畳んでふにゃっとビビへ凭れる。思い掛けず屈服させられる日々はつらかったが、ビビの気持ちを尊重して我慢を重ねるなんて昔の自分なら考えられない。

犠牲は5つのコルセット達。ビビに怪我はなし、心身共に。たぶん。何かやらかす前に解禁されてよかったと、頬をくっ付けてぎゅううっと抱き込んだ。


ふに禁の検死解剖


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