ヒュ〜ウ♪

『ビビは アメンボを つかまえた!』

ウタの好みでうるさいBGMが流れるHySy ArtMask Studioに、軽快で楽しい音楽が混じる。ビビが一生懸命タッチペンでかちかちしているコンパクトなゲーム機。“きてみろ 犬っころの森”。イトリとのお出掛けで買ってきた遊び相手の一つだ。

あれだけ可愛がっていた食パンを全員謀殺された為ビビは酷く寂しがり、あれ以降ゲームをやるにしてもウタにくっ付いて離れない。

た、た、た、走る音。
ぱた、ぱた、ぱた、振り下ろす音。
ぱすっ、何かを捕まえる音。


ヒュ〜ウ♪

『ビビは アメンボを つかまえた!』

食パンがいなくなった今、こうしてビビはゲーム内で負った借金を返すのに大忙し。はやく返済してお家のリフォームがしたい。

「アメンボばっかり。いくらで売るの?それ」

「150ペム。」

「やす…別の捕まえたらいいのに。いるよ?クワガタ。…高いんじゃない?」

膝に乗せたビビの後ろから覗き込んだ画面、指差したのは木に止まってもぞもぞ動くクワガタ。虫取り網を持ったままバタバタ走り回るビビは、クワガタのいる木に勢いよくぶつかる。

ぶ〜ん。飛んでくるクワガタ。

「わ。こっち来た」

「?」

画面の外に消えてったクワガタを追って横を向いたビビに、ウタがちゅっと唇を弾ませた。少し驚いたビビは、じ、とその唇を見つめ、不思議そうに周りを見回し、そしてまた画面に目を落とす。

た、た、た、
ぽこ、ぽこ、
ぱすっ、

ヒュ〜ウ♪

「またアメンボ?」

「のに。」

「“のに”?」

なに、それ。
再開したばかりであるマスクの作業を止めて覗き込むと、

『ビビは ノミを つかまえた!』

捕まえたノミを見せびらかすゲームのビビと、隣で怒っている住民。

「ああ、ノミ」

「のみ?」

「ノミ。それより…いいの?隣の彼、怒ってるみたい」

「?」

「ほら、ビビに怒ってる。なにかした?」

「みて。」

ぽこん、ビビが虫取り網で住民の頭を叩く。煙を出して憤慨する住民をタッチペンで指し示して、どういう経緯で怒らせるに至ったのかを簡単に再現して見せた。どうやら、この住民にくっ付いていたノミを叩いて捕まえたらしい。

「へぇ。住民さんは捕まえられないんだ。売ったら高そうなのにね」

「ね。」

ふにふに。胸へのじゃれ付き。肩で寛ぐウタへ頬擦りをして応え、また画面へ向き直る。

その顔を、ちょい、と。胸で遊んでいた手で横を向かせ、あむあむと唇を弄んだ。ビビの手が強請る様にウタを引き寄せたのを受けて滑り込ませた舌は、ちゅうっと弱く吸い上げられてからちろちろと舐められる。なんとも擽ったいその感覚に口付けたまま小さく笑ったウタは、またふにふにと胸を構いつつ悪戯なビビの舌を優しく噛んで咎めた。

真っ赤な唇に舌を這わせて、おしまい。

「んー。舌がムズムズする…」

「?」

擽ったい感覚がまだ遊んでいて舌先を噛む。ビビとしてはウタの真似をしているのだろうが、どうにも下手くそ。同じ様に舌先を噛んだビビが一度首を傾げ、また借金返済に取り掛かった。

少しして、ビビの村に訪れるお客さん。ビビ以外は犬しかいない筈のこの村で、のそのそと歩き広場で物をポイポイ落としている男の子。

「なに?彼」

「蓮ちゃん。」

「蓮示くん?…え。何しにきたの?」

縫製の合間にチラチラ覗いていただけの画面を、改めて覗き込んだ。あの四方がゲームをするとは到底思えないし、画面に映っている男の子はカラフルなお洋服を着て目がくりくりしている。初期設定のまま変えていないだけかもしれないが、それにしても可愛い。とても四方には見えない。

ぽい、ぽい、
ひたすら物を落とす四方。

ひょい、ひょい、
ひたすら拾うビビ。

「ペム。ビビにって。」

「…ポイ捨てかと思った」

でも、うん。なるほど、と頷く。ビビの村にペム、即ちお金になるアイテムを落としている。四方がこんな事をする理由は一つしかない。この間の鍛錬でビビを泣かせたから。

恐らくはまたイトリに言われたのだろうが、四方の村にしかない果物やアイテムまでもごっそり落としていく様子から、四方にとって言葉で表すよりはよっぽど気が楽そう。ビビも嬉しそうにしているし、言葉は無くとも仲直りは成立している。虫取り網でぽこぽこ叩かれながら、カラフルな四方はたった数分の訪問で帰って行った。

レアな果物をカリカリ食べ尽くして、ビビは早速貰ったアイテムをお店へ売りに行く。

四方からのプレゼント、買取合計は16800ペム。

「………虫取りなんかより、よっぼどイイよね」

「?」

四方の貢いだアイテムは、本人の知らぬ所で家具や洋服全てペムに変えられビビの借金返済へ当てられた。

貰い物を売り捌く。
ビビに戸惑いは全くなく、まるでパトロンな扱いに胸をふにふにしていた手も止まり、頬同士をぴったりくっ付けてぎゅうっと抱き込む。ゲームでの振る舞いが悪い子過ぎて少し不安。

ウタだって他人事ではなく、ビビが着ているお洋服もこのゲーム機も、それにあの食パン達だって全てウタが買ってあげたもの。片やゲームの世界で、片や現実の世界。ビビの頭ではゲームと現実を繋げる事は難しいだろうが、大親友にお客さんからの貢物を平気で売り捌く魔性のイトリがいる為、さすがのウタも行く末を危惧した。

悪いことをしているとは少しも思わないビビは川の魚影へバシャバシャ網を振り下ろして捕獲を試み、川沿いを全力疾走して村中の生き物を蹴散らす。

池にいるアメンボを捕まえ、バタバタ走り回り、またアメンボを捕まえ、そして落とし穴に落っこちた。


一日かかってビビが捕まえた生き物はアメンボ6匹とノミ1匹。合計金額970ペム。

四方からもらったアイテムの合計金額16800ペム。


足した17770ペムが借金返済に使われ、大家の犬っころから押し付けられた借金は残り2230ペムとなった。


お家のリフォームまでもう少し。


虫網の暴走族


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