ウタの手に握られた変な色の腕。宇宙人のお肉。ホカホカと湯気を立てるそれは薄いピンクとグレーでなんとも言えない色合いをしており、ひくひくと鼻を利かせたビビの食欲を扇で煽る。タオルケットをゴワゴワと捏ねる手元は少しの警戒と大きな期待を持っており、ご飯待ちのビビはソファの上でいい子に正座。

――当然、これは宇宙人のお肉ではない。ウタが選りすぐった人間の女性、その腕を普通に茹でただけ。ビビがいつもの食事とは大違いで大人しくしているのは単に騙されているから。花と同じ人間のお肉は喰べたくないけれど、花と違う宇宙人のお肉であれば喰べられる。バラしていなくても平気、ウタの口移しでなくても平気。腕そのものの形に嫌悪感はない。いい匂いで美味しそう。はやく喰べたい。

茹で汁がゆらゆらする黒いマグカップからも美味しい匂いが漂い、待ちきれない様子のビビは催促をする様に丸めたタオルケットへばふっと伏せをした。

ゆったりとソファへ腰掛けるウタがテーブルにマグを置き、宇宙人の腕を振って手首をクタクタさせる。まだ動いている、と警戒するビビをよそに腕へと口付け温度を確認するが、まだ幾らか熱いようだ。

一口齧って味見をしたウタに倣って、ビビも身を乗り出しておっかなびっくり鼻先を寄せた。

くんくん、

「待ってて。もう少し冷まさないと」

「や…。」

お腹が鳴りそうなほどにいい匂い。ビビでも喰べられる餌が目の前にあるのに我慢など出切るわけがなく、言うことをきかずにウタの腹へと手をついたビビはそのまま宇宙人のお肉へ手を伸ばす。一度握ってみて予想以上に熱かったらしく、袖口で隠した手でお肉を奪い取ったビビはウタと反対側の肘掛けへと逃げ込んで、骨のおやつを食べる犬の様に凭れて伏せた。

仕方ないなぁ。
置いてけぼりにされたタオルケットの塊と共に、ビビとの距離を詰める。

「フーフーしないと熱いよ?…ぼくがやってあげるのに」

悪い子していた昨日と同じ様にまあるく伏せるビビは後ろから見るとやはりただの毛玉。背凭れに手をついて覆ったウタを一度見上げてからあぐあぐお肉に喰い付くビビは、熱くても頑張っている。フーフーなんていらないと言わんばかりの喰いっぷりに、ウタも珍しさから目を数度瞬いた。

普段はお腹がへったともご飯が喰べたいとも言わない。ウタが喰べてと願っても人肉だけはなかなか喰べない。空腹自体に疎くなってしまったのかと思っていたが、この様子から見てそれはないだろう。

もぐもぐと一生懸命に喰べるその一口はとても小さいが、数度の口移しでもう嫌がるビビからしたら考えられない量。丸く太った頬袋には既に数回分のお食事が入っている。

――お腹、へってたんだ。
それもそうか、と溜息をついたウタが後ろからピッタリくっついて抱き締めても、喰べる事に夢中でなんの反応もない。もさもさの髪に頬擦りをして、胸をふにふにして、喰む口元を覗き込む。

「…。」

つんつん、ふっくらした頬袋を突つくと警戒した様に横目でジ、と様子を窺うビビ。出会った頃はご飯を取られる事に対しての警戒心なんて持っていなかったから、ウタと出会ってから少しだけ成長したようだ。忙しそうだった口元も止まりご飯を取られない様お肉に喰い付いたままでいる。だが、

「、」

ウタがお肉を掴んで引くとあっさり明け渡す。少しの抵抗もない。ただ物欲しそうに目で追い、申し訳なさそうな顔でウタを振り返るだけ。信頼するウタだから肉を放すのか、他人がやっても同じなのかそれはわからないが、まだ喰べたいと目で訴えるビビが可哀想だから早々とご飯を返した。

つんつん、再度頬を突つく指は一瞥だけで無視。大事そうに両手で持ってあむあむと喰いつく。

「すごいね、ほっぺ。リスみたい。欲張りなリス」

頭を撫でたり頬擦りしたり後ろから一口齧ったり、構い倒すウタと共に進める食事はとても幸せで、小指を骨ごとカリカリするビビは好みに合う食感におっとりと瞬き太った頬袋のままウタへ頬擦りをする。十分な栄養を得られた体は並足とはいえ早速情事の噛み跡を治癒し始め、これでまたビビの命がきちんと充電された証となった。

宇宙人のお肉と偽るだけで嘘みたいにお肉を喰み、少食と思われていたあのビビがもうすぐ腕一本を喰べ終えてしまう。

えらいえらい、と褒めるウタに得意げにしながら食を進めるビビは、撫でられる頭に心地よさそうに表情を緩めてお肉を飲み込んだ。あとはもう指先や骨の間のお肉しか残っておらず、粗方喰べ尽くした事になる。思いの外大喰いだったビビは、はふっと満足そうなため息を零して肘掛けにぺたっと頬をくっ付けた。

「ごちそうさま?」

「ごちそうさま。」

「はい。それではビビさん、食後の紅茶をどうぞ」

指先で引っ掛けたマグカップ。ただの茹で汁。いい具合に冷めたそれがビビに飲んで貰おうとキラキラ揺れる。浮かぶ脂も匂いも全て美味しそうで、あれだけ喰べたにも関わらずビビは大喜びでマグを受け取った。

んくんくと栄養を飲むビビを大事に抱えて見守る。まったくいい作戦を思い付いたもので、見ているこっちが満腹になるほど。

すんすん、首筋に鼻先を寄せじゃれ付く頃にはもう飲み終わったビビが、再度のため息をついた。はふっ。

ウタとしてはこれで大きな安心を得られたわけで、ビビがご飯を喰べてくれないとしょんぼりする必要もない。万が一大きな怪我をしてしまったとしても、回復はある程度追い付くことだろう。人間の形そのままで喰べられる様にする訓練にも役立ってくれるはず。いい事ずくめの宇宙人作戦。

もっと早く気付けたらよかったのに。ゴロンして幸せそうなそのお腹を撫でながら緩く思う。

いつ頃バレるかな、なんて少しも悪く思っていない頭で考え、食後のお腹なでなでに眠そうなビビを見ながらこてん、と首を傾げた。




かゆい。
かゆい?
ぼわぼわでちゃう…ビビの…。
…赫子はダメだよ。ガマンして
や…。むじむじって…かゆい…。


灰肉のいらっしゃいませ


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