バカみたいに可愛い


何故に私は天井を仰いでいるのだろう。
休みの日は自分のお布団の上でゴロゴロしたい人間ではある。
でも今の状態は能動的ではないと思うんだ。

「…あのー、縁下さん?」
「うん?」

うん?じゃないよ。
ロールキャベツ男子って絶対こういう人をいうんだな、きっと。

「なんで私は押し倒されているのでしょうか?」
「俺がいろはさんに覆い被さっているからです」
「ええ、とても良く分かってますけども!何故!そうなってるのか!聞きたいわけよ!」
「自分で考えたら?」

ドエスか!
いつもの温厚なお前はどこ行った!
君は二重人格か?腹黒か?どっちもか!

「分かんないから聞いてんの!私、何かした?」
「ううん。何も」

にっこり爽やかスマイルの縁下容疑者。
なん、だと…何もしてないのに襲われてんの私?
意味不明!わけわかんない!
この王子様みたいな笑みがよけい恐ろしいわ!

「何もしてないなら釈放せい!」
「やだ」
「駄々っ子か!」

全くあざとくないし、全く可愛くない。
断じて君に可愛さは求めてない!
じろりと抗議を目で示しても、どこ吹く風。
くっそ、見た目は草食男子のくせして、れっきとした体育会系め。
なんやかんや文化系女子が腕力で叶う相手じゃないところが腹立つ。
でも理由無しにこんなことするヤツじゃないので多分なんかあったんだろう。

「もーホントなんなのさー?私は空気読める人間じゃないから言ってもらわないと分かんないよ」
「ああ、田中と西谷あたりといい勝負だもんな」
「言っとくけど私はバカじゃない!」

あいつらと同等にされるのは納得いかない。
バカ騒ぎするのは好きだよ?でも私は節度と限度をわきまえてるよ?

「どうだか。そんなに変わらないだろ」
「なんだそれー!心外だ!」
「事実です」

ぴしゃりと言い切られる。
一刀両断だよ。真っ二つだよ。
縁下先生ひどい。容赦ない。
なんですか?ゴキゲンナナメ?ハンコウキ?
頭をフル回転しても答えが出ません。

「ちーちゃん本当にどうしたー?」

考えても出てこないのでヤツの頭を右手で撫でながら事情聴取再開。
いつも眠そうな縁下くんの目がキョトンと丸くなる。
うむ。撫で心地は良きかな。
男子のくせに結構サラサラな髪質だよなぁ。
使ってるシャンプーのおかげ?

「ほんといろはって…」
「なにさ?」
「バカだよね」

しょうがないなぁと言わんばかりの、けど満更でもないような困った笑み。
だがしかし。
バカといわれて喜ぶ者がいるだろうか。いや、いない。反語を使います。

「全然誉め言葉じゃないよね!」
「んー、じゃあ、バカで可愛い」
「バカ要らないだろ!」

なんでそんなにバカを付けたがるかな!
私のアイデンティティは断じてバカじゃない!
つかバカじゃないよ!

「だったら」

力が続けた次の言葉にも、やっぱりバカは入っていて。

「…なんで"可愛い"だけにしないわけ?」
「バカには違いないから」
「もういいよ…」

諦めた私に力は満足そうだった。