恋がはじまる


二股かけてた。
親友と。
隠してやがった。
半年近く。


「私と付き合って一週間後からだよ?!その間あのクソ野郎も!親友だと思ってたあいつも!私を騙し続けてたってわけでしょ?!」

バァン、と机を強く叩く。目の前に座るミミズクヘッドは言葉を発さずに唖然としている。

「私気づかないまま半年も恋人仲を深めてたの!わかる?!意味のなかった半年間!」

わかったのは昨日だ。委員会で遅くなる、と告げたのだが、待ってるから一緒に帰ろう、と言われた。それはもう嬉しすぎて飛び上がりそうだった、なんて優しいイケメンかよ、と。
そりゃあ仕事もはかどるさ、早く終わらせるよね?で、急いで場所に向かったの、連絡あえてしないで。

「ま、まぁとりあえず落ち着け、奥山。」

木兎はなぜか小声になりながら宥めに来た。
木兎とは2年の時に同じクラスになり、隣の席、を何度か繰り返してから意気投合して、互いに愚痴を言う仲になった。
彼の場合はバレーに関してだから、的確には答えられないが、彼もまたテンション的に聞き手には向いていないので、互いが発散しあってるだけだ。

今日すぐに聞いて欲しいからわざわざ昼時にお邪魔した。
この話は軽くメールしたから、流石の木兎も場所を気にして部室を開けてくれた。

結果こんなに大声出しちゃって、申しわけがない。


「・・・普通、キスするかなぁ。」

深呼吸してゆっくり告げる。
気持ちを落ち着かせようと思ったから。
でもそれは逆効果だったみたいで声が震える。

好みの女になろうとした。金髪がいい、と染めた髪。ゆるふわがいいからとパーマも当てた。スカートは短めだったし、露出も強めだった。

結果二股相手とは真逆。清楚も清楚、塊だっての。理解ができなかった。
性格もふんわりおっとり系だったのに、なにそれどういうこと?
それだけでも混乱したのに・・・そんな、空き教室でさ、見慣れた親友と、・・・好きだった彼が。
鈍器で頭を殴られた、という言葉がぴったりだった。

フェアじゃないから2人に腹パンとグーパンしてきたけどね。



「・・・奥山と付き合ってるのにか?」
「私はそのつもりだったけど。」

顔の中心に力を入れる。結果凄い木兎を睨みつけているよう感じになってしまった。
でも木兎はふーん、としか答えなかった。

「あいつ、どんな気持ちだったのかな」

あんなに短いスカートだって、金髪だって嫌だった。似合わないから。それでも合わせたのは喜んで貰いたいから。
それっぽい人を横目で見ながら研究もしたし、それっぽい行動も心がけた。

「別れたのか?」
「え?」
「そいつと。別れた?」

いつもは騒ぎ立てるのに、今日の木兎はおとなしかった。さすがに内容が内容だから、親身になってくれてるのかな。

「・・・まだ。」
「はぁ?!なんでだよ!」
「そんなにスパって諦められないもん!」

半年だ。半年間も、だ。たしかにむかちんときた。それなのに、別れて、なんて言えない。ぐらいには大事にしてくれた。それに、奴はどうだか知らないが、私はたしかに好きだった。

この気持ちは本物だった。

「早く別れろよ。」
「そんな簡単にできないよ。だって好きだったんだもん。」
「1人とまっすぐ付き合えない相手にか?」


言葉に詰まった。
そうだけど。

そう簡単に抑えられるのであれば、諦めがつくのであれば、恋などしない。

「簡単に忘れられない・・・。」

手もつないだ、キスもした。他のことだってデートだって。
高校出てもこの人と一緒になりたい、とも思った。
私だけだったのかな。

「俺でいいじゃん。」
「は?」
「だから俺でいいじゃん。」

なにをさらっと言っているんだ。
慰めのつもり?空気を読んだの?

「二股かけろってこと?木兎と。」
「ちっげーよ!」
「意味わかんないよ。」
「浮気相手で俺が満足できると思ってんのかよ。」

どこか怒りを込めた声色で、言う。
途端背筋が凍った。


「そんな最低クソ野郎忘れさせてやるから俺にしろよ。」

漫画の世界でイケメンが言うようなセリフを、しれっと言ってみせる。


「冗談きつい・・・」
「いろは」


一度も呼ばれたことのない名前で言う。

鼓動が早まる。


「俺にしろよ。」



恋が
はじまる。