囀る声


しとしと。そんな擬音がぴったりの雨が降っている。
梅雨は明けたと天気予報で言っていたけれど、どうやらまだまだ先らしい。
なので、今日は招平くんのお部屋でDVD鑑賞である。

「今日、誰の観るの?」

私の問いに招平くんはDVDケースを見せることで返してくれる。
なるほど。今日はこの人たちか。「全員集合!」と太字で書かれたタイトルを確認したところで、パソコンにセットし終えた招平くんが私の隣に座る。
物理的に近い。少しドキドキするのは乙女心です。

チャプターが始まれば、じっと食い入るように画面を凝視する招平くん。
本当に好きなんだなぁ。ちらりと横顔を盗み見て私はほくそえむ。
招平くんは無口だけど、実はとてもお笑いが好きな人だ。
持ってるDVDはコントだし、携帯の着メロに某落語番組のオープニングソングにしてたり…口に出さない分、他でちょくちょく色々とやってるんだよね。

私はお笑いをあんまり知らなかったけど、招平くんと一緒に居るようになって普通の人よりは詳しくなった。
というか、今ではすっかりハマッてしまっている。
招平くんが教えてくれる芸人さんやコントグループは外れが一個もなくて、自分でも探すようにもなったらどんどんその魅力のトリコになってしまった。

うーん、私、そこまで他人の影響を受けるタイプではなかったはずなんだけどな。これが恋の魔法なのかもしれぬ。

招平くんといると全然飽きない。楽しいこと、面白いことがいつもある。
それはきっと、素敵なこと、だよね。

なんて恋する乙女な思考をしたものの、画面で繰り広げられているコントに抑えきれず吹き出して爆笑する。
まさしく捧腹絶倒。我ながら大爆笑中。
初めの頃は「好きな人の前で大口開けて笑うとかありえない!」などと可愛らしいことを思っていたのに、今ではもう全く気にしてない。慣れって、怖い。
でも招平くんが構わないって言ってくれたから良しとする。ええ、単純です。

「はー、おっかしかったー」

たくさん笑って、軽く腹筋が痛い。
これ筋トレにならないかな?楽しくて、しかも辛くない筋トレなんていいよね。

「やっぱりこの五人は別格だよね。何度見ても笑っちゃうもん。すごいよねー」

そのまま招平くんのほうへ向けば、そう!まさに猫みたいに近づいて、招平くんと私の頬っぺたがくっついた
いつのまにか腕は回されていてホールディングなう。
むにむに頬っぺから伝わる体温。少し癖っ毛の招平くんの髪がくすぐったい。
嫌じゃないけど、突然のことに私はストップシンキングである。

「あの、招平くん…?」

ひとしきり終えたらしく、招平くんが離れる。
相変わらず真ん丸な両目が、戸惑ってる私を映している。
すると今度は内緒話をするみたいに、私の耳元を手で覆う。
そして、囁いた一言は破壊力抜群で。

「甘えたい」

彼の普段あまり聞くことのない声が、鼓膜を震わせた。