リセットオッケー?
二口堅治はチャラそうに見えるが、かなり真面目な人間である。
口と態度が悪いから、好印象じゃないんだろう。
少なくとも私はそう考えている。
…まあ、だから。
「……」
「……」
二人きりになって、隣同士で座っても私と目を合わせないのかもしれない。
「なぁ、二口くんや」
「くん付けするな気持ち悪い」
「そりゃすまんね。でもさ、ちょっと気がかりなことがあるんだよ」
「…あんだよ」
そこで私は二口の両頬をホールドし、自分のほうへ向かせる。
「仮にも付き合ってる男と女が居て、しかもココは彼氏くんの部屋で、ご両親はいらっしゃらないという絵に描いたようなシチュエーションだね?」
「…そうだな」
目線も視線も合わない。
往生際悪すぎる。
「なのにかかわらず。かれこれ三十分ほど経っているのだが、一切何もないというのはどういうことなのかな?」
「漫画とか読んでるじゃねーかよ」
その言い方に、ぷつりと堪忍袋が破れた。
「おまえがなんもしないからだろうが!」
「いって!あんだよ!」
「やかましい!女だってねえ、何もされないと不安なるの!」
二口の頬を挟んでた両手ではたく。痛い?知ったもんかそんなの。
友達から恋人になったから、スキンシップするのは恥ずかしいところもある。
でもデートのときくらい、手をつなぐなり、肩を抱くなり色々とさぁ、ないわけ?
別に外でバカップルしたいわけじゃない。でも、二人きりのときくらい少しはあっても良いはずでしょう。
「大事にされてるのかなって思うけど!でも魅力ないのかなとか思うの!思っちゃうの!」
「………」
無言は肯定と捉えて解釈していいんだな?
泣きたくなってきて、私は端に置かせてもらっていたカバンと上着を持つ。
「おい?」
「帰る。もういい」
「は?」
そのまま部屋を出て、玄関まで来ても追いかけてこない。
なにそれ。結局、私ばっかり。
二口家をあとにして帰路を歩く。じわりと視界がにじんで俯けば、地面に涙が落ちる。
手の甲でぬぐってもなかなか止まらない。最悪。
「いろは」
振り向けば、ぎょっと驚く二口堅治。
「え、マジ泣き…か?」
「もうなんなんだよ!ばか!ばか二口!マジ泣きだわ大泣きだわ!ふざけんな!」
「あー…」
ばつが悪そうに頭をかく。
ほんと彼女が泣いてるのになんで気が利かない。
「…悪かった」
「それは何に対しての謝罪だよ」
というか、私が何故怒り心頭したのか理解しているのかコヤツは。
「……あのさ」
「なに」
「俺、意外と純情少年なんだよ」
「はぁ?」
目をそらしたままは変わらず。
「おまえといると、すっげー緊張する。触りたいとか思う。触りたいけど、触ったら歯止め効かなくなりそうになる」
ただ、顔は赤い。
見たことない表情。
「好きすぎて、こえーんだよ」
「……は……」
なんじゃそら。意味わかんない。
なのに、私までつられて赤くなっていく。
もう、なんだろう。この男。
普段は軽口ばっかりのくせしてさ。
「でも、いっしょに居たい、です」
「……はあ」
ほんとバカ。
でも、こんなやつに恋をしている私はもっとバカだ。
「二口」
「あ?」
「好きだよ」
「なっ……!」
私は歩き出す。彼の家へ向かって。
しょーがないじゃない。
かわいくて愛しいヘタレな彼のそばに居たいって思ってしまったのだから。
=end=