幸せなら手を叩こう


窓の外で蝉が鳴いている。連日、熱中症に気を付けるよう天気予報で流れている程度には今日も暑い。いくら住んでいるところが東北圏だからいっても、暑いもんは暑い。外に居れば日射しが焼くようだ。
最も今は冷房が効いている室内なのだが。
指折りになって迫る試験に向けてノートをまとめて一息つく。しばし休憩。首を回して軽く凝りをほぐした。

「幸せなら手を叩こう」

小さい頃に歌わされたり聞かされたりされた童謡フレーズが聞こえて眉を寄せる。
隣に座る奥山が教科書にラインを引きながら鼻歌を歌っていた。

「なに歌ってんだ?」
「うん?しあわせならてをたたこう?」
「なんで疑問形なんだよ。というか、勉強中に歌うな。うるさい」

奥山は「ごめん、ごめん」全くそう思ってない軽い調子でぬかす。ちらりと見た線引きした単語の近くに要点メモを書いた付箋が貼ってあった。一応、ちゃんとやることはやっているらしい。だが、勉強中に私語は厳禁だろう。

「私、この歌けっこう好きなんだよ。口ずさむくらいには。だって小さな幸せを見つけられそうでしょ?」
「安い幸せだな」
「いいじゃないの。安く幸せになれるなら逆にラッキーじゃん」
「それはただのバカっていうんじゃないのか?」

そう返せばコイツはジトりと睨んだものの一つ息を吐いた。

「でも、私はきっとこの時間がなんだかんだでいいんだよね」

独り言のように呟き、少し困ったような笑みをして、拍手を二回する。

「なんだよ?」
「幸せなら?」
「は?」

俺の疑問嘆をまた拍手二回で返す。

「つまり、私は白布と二人でいるとき」

拍手二回。

「こういうこと」

照れたように、少し嬉しそうに、はにかむコイツに俺は呆れる。ほんとにバカじゃないのか。
蝉の声がまた一つ大きくなる。外は気温が上がったのだろうか。
俺は立ち上がって冷房の設定温度を下げて体感を冷やす。

…本当に馬鹿なのはコイツに言われて満更じゃなく思ってる俺自身だ。