理由までたどり着かない
「じゃーん!久志にぃ、見て見てー!」
ノックもせず俺の部屋に入ってきたのはひとつ年下の幼なじみ。
何故か黒に近い紫紺色の生地に控え目な朝顔の柄の浴衣を着ていた。
まったり布団に寝転んで漫画を読んでいた俺は半眼を送る。
「ちょっと可愛い幼なじみが来たっていうのに何その反応」
「自分で可愛い言うな」
起き上がって、突っ込めば、いろはは頬を膨らました。
「なにさ、せっかく浴衣見せに来たのにー」
俺の目の前にやって来てくるりと回る。
「どう?似合う?」
去年は確か元気溌剌ないろはらしく白地の浴衣で明るい雰囲気だったのに、ずいぶん今年は暗めだ。ついでに帯も控え目な色。
なんだか、急に大人びた感じ。
俺の中では世話の焼ける妹みたいな存在だったのだが、今年高校生になって少し背伸びしたくなったのだろうか。
兄的には少し寂しい気もする。言わないけど。
「うん。似合ってる」
一応、世辞ではなく本心を伝えたのだが、いろはは眉を寄せた。
「…久志にぃさ、他になんかないの?」
「なんかってなんだよ?」
首をかしげれば、はぁ、と落胆された。
「いろは?」
「もういい!久志にぃの鈍ちん!」
不満を顔に書いて、いろはは部屋を出ていった。
扉を閉める際に「今年もだめか」と、ぽつりこぼしたいろはの一言はその時の俺には聞こえなかった。