アイン レーラー


「あつーい」
「早く終わらせないと苦労するぞ」
「もう苦労してますーぅ」

夏休みの中でも1日だけ、レオンと過ごす日がある。それは私の宿題のお手伝いをしてもらう日なんだけど。

「なんで今日クーラー壊れるのぉー」
「騒いだら余計暑くなるからおとなしくな」

今日の朝までは問題なかった。起きて準備しながら徐々に室温が上がって行くのに気付いたけど、その時にはもう遅かった。
気付いてすぐ修理の連絡をしてもらったけど、どんなに早くても明後日になるってお父さんが言ってた。
南向きで日当たり良好、かつここ最近の雨で湿度が以上に高い今日、室内は異常な高さになっている。

「レオンは平気なの?」
「バレーやってる時の方が暑いからなぁ」
「そっかぁ」

窓を開けても風はない。きっと夜も暑いんだろうな。もしかしたら暑すぎて死んじゃうかもしれない。

「死なないからペンを動かしな」
「むー」

わざわざ白鳥沢に行ったレオンを呼んで助けてもらってるんだから、いつまでも文句を言ってるわけにもいかない。

「レオンー」
「ん?ああ、ここはこれを先に代入してからだね。そうしないと分母がおかしなことになる」
「なんで? 」
「なんでと言われてもなぁ…」

こういうことを聞くのは、めんどくさいと教師にも言われた。でも気になるんだもん。なんでこの公式になるのか、どうしてここに代入してからなのか。誰も教えてくれないし、しまいには諦められた。

「いいよ、レオン。【そういうもの】なんでしょ?」
「まぁそうだけど」

教師が投げ出したくらいだ。きっとレオンにもわかるわけない。そう思いながらも聞いてしまうんだから、私も性格が悪い。
頭も性格も、ついでに顔も悪いとかもうどうしようもないな。ははー。

「あとで教えてあげるから、今は宿題な」
「はぁい」

そもそもどうして学校の違うレオンが私に勉強を教えられるのか。それは白鳥沢の偏差値が高いことと、私の頭がよくないことに一貫する。
「やればできるのに」なんて言われても、やってもできないからこうなってるんだってね。ひどいや。

「これであってる?」
「どれ…うん、大丈夫」
「ありがとう」

じゃあこの設問は同じはずだから、まとめてやっちゃうのがいいかな。教えてもらってばっかりじゃダメだもんね。頑張らなきゃ。

教えてもらったのと同じように解いていくと、今だかつてないほどスルスルと解けていく。次の設問もいけるかなと思って解いてみたら、できた。なにこれ面白い。

「レオン」
「どっかわかんないのか?」
「全部解けた」
「お、やるじゃないか」

ヤバい、ちょっと感動する。
今までにこんなにできたことがない。なにせ中学に入ってから数学がとにかく嫌いだったから、まともに解けてたのなんて小学生までだ。

「レオンにカテキョしてもらいたい」
「ははっそう言ってもらえると有り難いな」
「だってまさかこんな簡単に解けると思わなかったんだもん。これからも教わりたい」
「でも普段は寮だからなぁ」

そうなんだよなぁ、レオン白鳥沢の寮なんだもん。家から通ってるならいつでも教えてもらえるのに。

「押しかけてもいい?」
「女の子が男子寮に押しかけるなんて言うんじゃないの」
「嘘だよぅ」
「嘘でもやめなさい」
「はぁい」

そもそも、今日もレオンの少ない休みだったはず。それなのにいきなり宿題教えてって連絡してわざわざ都合つけてくれたんだよね。

「私に付き合わせてごめんね」
「俺も宿題片付けたかったしちょうどいいよ」
「ありがとう。あ、お茶持ってくるよ!」

冷蔵庫から麦茶と、昨日衝動買いしたマドレーヌをもって部屋に戻る。
…紅茶なんて我が家にはない。

「お待たせー」
「ありがとうな」
「いいえー。教えてもらってるんだからこれくらいはね」

ささっとノートを片付けて麦茶とマドレーヌでおやつタイム。
麦茶は早くも汗をかいてるし、マドレーヌはおいしい。これでクーラーが壊れてなければ最高だったのに。

「電話でも良ければいつでも教えるよ」
「ホントに?!」
「奥山の希望だからな」
「え、でも部活で忙しいよね」
「うん。だから時間は限られるけど、それで良ければ」
「あ、ありがとう!助かる!」

レオン、学校でも頼られてるのかな。部活大変なのにそれ以外でもきっと大変だよね。それなのに私が更に迷惑かけて…

「あの、無理だったら無視してね」
「無理だったら言うから大丈夫」
「ならいいけど」

よくないけど。

「奥山に頼られたら頑張らないわけにいかないでしょ」