へんなひと


昼飯を手に入れて階段を上がると、見慣れた姿が目に入った。

「奥山センパイ、こんなところで何してるんですか?」
「おろ?リエーフじゃないのさ」

ふらりと上がった右手とパンを食べる左手。同じように手を振り返してから、なんとなく小さなセンパイの隣に並ぶ。

「リエーフこそどしたね」
「オレはセンパイが見えたんで!」
「ご苦労様でーす」

そう言って、センパイの視線は元の場所に戻る。
よくドラマとかで警察官がやってる張り込みみたいなことしてるけど、マジでなにしてるのかわかんねえ。でもなんか考えてるからここにいるんだよな。

「で、センパイなにしてるんです?」
「んー?」

もったいつけて教えてくれないのかと思ったけど、楽しそうな顔をして、かっこよさげにパンを噛みちぎった。
…パンくずが落ちて制服に付いてるのは言わないでおこう。

「リエーフよ、ここはどこだイ?」
「階段ですね」
「階段の、どこだイ?」
「えーっと、1番下?」
「その通り!そうすれば自ずと答えは導き出せるだろう!」

階段の1番下。ここでセンパイがなにをやってるか?

「いや、全然わかんないです」

なんでわかると思ったんだろう?それとも俺だからわかんないの?

「仕方がないのぅ。我が教えてしんぜよう!」

やたらと演技臭くどや顔をするセンパイに心が踊った。奥山センパイはいつも面白いことを考え付く人だから、期待してしまうのはやめられない。

「ここはね、チラリズムスポットなのだよ」
「…は?」

チラリズム?
えーっと、チラリズムってあれだよな?見えそうで見えないアレ。確かにここだとちょっと上を向けばチラリズムが…

「って!センパイなにやってんスか!」

これ狙って見てたら犯罪になるんじゃないのか?!

「同性だからできることだよ」

いや、ダメだと思う。

「まぁ見えそうになったら全力で目をそらすけどね!」
「見えるのは嫌なんですね」
「そりゃそうだよ!見えてもこれっぽっちも嬉しくないよ」

それはそれでどうなんだ。

「あ、リエーフの意見も聞きたいから付き合ってよ」
「なんか必要なとこありますか?」
「私はどう頑張っても190の視点にはなれないからね」

なるほど。

「でもやりませんよ」
「えー!」

いや!俺がやったらただの変態じゃないですか!センパイがやっててもただの変態ですけど!

「いーじゃん!やろーよー」
「いやですよ!」
「大丈夫、案外バレない」
「バレなきゃいいってもんじゃない!」

ちょっとホントやだ!俺まだ捕まりたくない!せめてエースになってからがいい!エースになっても捕まりたくないけど!

「おっぱい触らせてあげるからー」
「…は?」
「お?揺らいだ?夢と希望と愛と平和が詰まったおっぱ「揺らいでません!」

別におっぱいくらいなんでもないし!彼女作って触らせてもらうから別にセンパイじゃなくても

「私平均よりおっきいよ?たぶんリエーフくらい手が大きいと普通のコじゃ物足りないんじゃない?」

いや!知らないし!余計な情報混ぜるのやめて!でも平均より大きいってどれくらい?平均がわかんないんだけど。

「あ、今おっぱい見たでしょー」
「みてないです!」

くっそハメられた!
見たよ!見ましたよ!比較対照姉ちゃんしかいないからわかんないけど、平均がわかんないからつい見たよ!でも否定するしかないでしょ!

「ねーえー、一緒に見ようよー」
「見ません!」

あああ誰かこの人何とかしてください!

「てめぇリエーフに変なこと教えてんじゃねえ!!」

そう思ったら、夜久さんが飛んできた。

「へぶぉあ!?」

助かったけど、夜久さんが女子に蹴り入れてるの初めて見た。センパイ、蹴られたのがパン食べきったタイミングでよかったですね。

「お前廊下でなんて事叫んでんだよ!」
「痛いよやっくん」

吹っ飛ばされて床に倒れた奥山センパイと、部活のときより怖い顔で腕組んで見下ろす夜久さんがいる。
これ、先生に見つかったらなんか言われないんですかね。

「その呼び方やめろ。あと女子が妙なこと口走るな」
「え?やっぱりやっくんもおっぱいサイズ気になる?私は」
「だからそういうことを言うな!」
「いだっ!」

やっぱり夜久さん強い。

「お前俺の後輩に変なこと教えんなよ」
「変なことじゃないよ!チラリズムの教授だよ!」
「十分変なことだし男にそんなもん教えんな。捕まる」
「捕まんないし、女子だからできることだよ」
「いや捕まるからな」
「てゆーか見たいわけじゃないよ」
「は?」

さっきも言ってたけど、見たいから見てるんじゃないの?

「じゃあなんでそんなことしてんだよ」
「どの長さでどの高さまで行くと見えるか見えないかのギリギリになるのか統計をとってるんだよ。ついでに姿勢とかも見てね、総合的に」

なんか頭良さそうなこと言ってるけど

「結局のところただの変態だろ」

うん。そうだと思う。なんかここにいると勘違いされそうでちょっとやだ。
変態になりたくないから、ちょっとだけセンパイと距離を取る。

「あ!なんで離れたの!」
「リエーフ、賢明な判断だ」
「アザス!」

けんめいって、なんにも頑張ってないけどなんか夜久さんに誉められた。

「とりあえず奥山は変態行為をやめろ」
「変態とは失礼な!これは私がチラリズムでおっさんに狙われないようにするために必要な調査だよ!」
「もっとよくねぇ!!」
「うぐを!」

夜久さんが女子にここまで容赦ないなんて初めて見る。

「センパイ、夜久さんになにしたんですか?」
「え?なにもしてないよ?」
「そうなんですか?」
「むしろなんでそんな発想になったのかね」
「だって、夜久さんに蹴っ飛ばされる女子なんて初めて見ますよ?」
「こいつを女子とは認めねぇ」
「ひどい!揺れるスカートが見えないの?このおっぱ「黙れ」

なんか、俺より容赦ないんじゃないかな。

「いいか?奥山は変態行為をやめろ」
「………」
「返事」
「はい」
「リエーフはこいつに関わるな。絡まれても無視しろ」
「それはひどくない?」
「奥山は黙っとけ?」
「…はい」

センパイめっちゃ小さくなってるけど、いいのかな?

「いいな?」
「え?あ、はい」

よくわかんないけど、センパイの話に乗らないで止めればいいのかな?

「よし、わかったなら直ちにここから離れろ」
「!!…はい」

捕まらない程度なら、センパイに付き合ってもいいかな。