無意識な気持ち
「ちょっと龍ちゃん!聞いてるの?!」
「聞いてるっつーの!」
なんの因果か、今日まで同じ校舎で過ごすことになった奥山が口喧しく急かしてくる。
「なんでHRで言われたのに忘れちゃうの?聞いてなかったんでしょっ」
「忘れたんだって」
「そんな短時間で忘れるわけないじゃない!」
「悪かったって」
しゃーねーだろ、聞いてなかったんだから。聞いてなかったって言ったらまたいろいろ言われるから言わねーけど。
「久しぶり、また田中が何かやらかしたの?」
「あ、潔子さぁん」
奥山はなぜか潔子さんと仲がいい。こうして顔を合わせることがあれば少し話しているくらいには。
と言うか、俺がやらかした前提で話さないでください。間違えてないですけど!
「放課後までに提出のプリント持って帰っちゃったので、それを回収しに来ました」
「お疲れ様」
「潔子さんもなにか探しに?」
「コールドスプレー取りに来たの」
「そうだったんですね」
潔子さんと奥山の声を背中に言われたプリントを探すが、なぜか見つからない。鞄に突っ込んでると思ったんだけどな…
ひっくり返せば出てくるのかも知れないが、潔子さんの手前そんなことはできない。
「龍ちゃん、見つかったの?」
「お、や、ちょっと待って」
「早くー」
わかってるっつの!
「大久先生、昔からそういう人みたい」
「そうなんですね」
大久の授業を潔子さんも受けてたのか…2年だった潔子さんや入学直後の潔子さんも、それは美しかったんだろうな…
「龍ちゃん!早く探して!」
「はい!」
くっそー。少しくらいいいじゃねーか。あ、大地さん達なら俺の知らない潔子さんの写真持ってるかもしれないな。あとで聞いてみよう。
お、
「あったぞー」
「もー!鞄の中汚いから見つからないんでしょ!」
「そんなことねぇよ!」
これでも整理してるっつの。見つかんなかったのは、あれだ、運が悪かった。
「明日奥山がハマってるやつ買ってってやるから許せ」
「絶対だよ!忘れたら怒るからね!」
「へーへー」
「では潔子さん、また」
「うん、またね」
「龍ちゃん!絶対だからね!」
「わかったから早く行けって。走ってコケんなよー」
「子供じゃないんだからやめてよ!龍ちゃんのバカ!」
「バカとはなんだバカとは!」
バカだけど!
少しシワのよったプリントを片手に走っていく奥山を、なぜか潔子さんと見送る。
…はっ!密室ではないが、きっ潔子さんと2人きり…!ちょ、ノヤっさぁん!
「田中」
「はい!」
「…田中、かわいいあだ名持ってるんだね」
「う!や!あれは近所に住んでる奴と一緒になってガキん時に呼び始めまして!やめろって言っても全然やめてくれなくて!」
「かわいいと思う」
潔子さんにかわいいって…!感謝も込めて奥山へのお菓子は奮発してやろう。
「それに田中、いろはちゃんにはちょっと優しいよね」
「へ?そーですか?」
「気付いてなかったの?」
「や、なんつーか奥山に優しくしてるつもりなかったんで意外なことを言われたと言うか、」
「…そっか」
そう言うと潔子さんはスプレーを手に部室から離れていった。
今日も後ろ姿まで美しいです、潔子さん。
「え、いや、それで終わりっスか?潔子さん。潔子さーん!」
どういう意味ですか潔子さん!