self-love


俺の好きな人は俺の友達に恋をした。
けれどアイツには他に想ってる女の子がいるということを知った。
俺はいろはに伝えなかった。
伝えたくなかった。

「松川はずるいよ」

震えた声でいろはは言った。両目から大粒の涙を流して。
否定はしない。そうだと思う。俺はいろはの失恋をずっと待ってたのだから。
そして今日。
待ちに待った運命の日。
いろはは自分の思いをアイツに告げた。
結果は最初からわかってた。
だって俺はアイツの好きなやつを知っていたのだから。
その上で傷心中の彼女に「好きだ」と告白したのだから。
大きく開かれる両目は一種の絶望を見たようだった。

「うそ…」
「嘘じゃない。ずっと前からいろはのこと好きだった」
「わ、たしは…」

お前は断れない。
俺を付き放せない。
今しがた告げた俺の言葉に一瞬でも揺らいでしまった。
きっと自己嫌悪と罪悪感でいっぱいだろう。
いろはが軽い奴じゃないことは承知してる。
俺の知ってる人間の中で誰より優しくて甘くて真面目で繊細な奴だから。

「松川はずるいよ…」

彼女は嗚咽しながら「ずるいよ」と繰り返す。
せめてもの抵抗。いや悪あがきに近いだろう。
ごめんな。
ずっと気の合う友達でいたかった。お前を心から応援できる男になりたかった。
どれも本当。
だけど。
それでも、おまえのこと渡したくなかったんだ。