スイーツ男子と生徒会。


「私おかわり取ってこよ!」
「行け行け。」

柳野瑞穂は3皿目となるケーキを取りにバイキングエリアに足を運ばせた。

「…マジか。」

驚愕するなど失礼だ、と頭では思っていたが、つい言葉に出てしまう松川。
それに続けて花巻も、誘った本人ではあるが、動揺が隠せない。

「…柳野食うのな。」
「そりゃあ人間なんだからご飯くらい食べるでしょ。」

それにしても、だ。
唯川の言うことは最も。最もだけど。

「女子って、2皿で、もう食べられないよぅ、じゃないの?」
「なによそのぶりぶりした女子。そんなわけないでしょ。」
「いや、大体の女子はこんなんじゃないの?」

松川の言っていることに、男としては同調したい花巻ではあるが、そこは首を横に振る。

「…柳野は…大食いみたいだ。」

男子の前では小食を張るのが女子ってものではないのだろうか?気になる彼の前では恥じらう、みたいな。そこが可愛い、みたいな。

「ちょっと花巻も松川もさ、3皿程度で大食いって、ビビってる?」
「お前の解釈にびびるわ。」
「ただいまっ!なんの話してるの?」

そこに笑顔で瑞穂が戻ってくる。
ショートケーキとフルーツタルト、おまけにシュークリーム。

「…いや。」
「美味い?柳野。」

その屈託のない笑顔に、花巻は何も言えず。松川も、味だけを確かめる。

「すごく美味しい!何個でも食べれちゃうね!菜々実ちゃんはまだいいの?」
「楓みたいにスポンジ系から攻めちゃったから休憩。」
「スポンジ系お腹にくるよね!クリーム多いし。菜々実ちゃんらしくないね、いつもなら同じなのに。」

生徒会二人の会話を聞き、自称スイーツ男子花巻、そして巻きぞえの松川はマジか、と脳内でつぶやいた。
そして6皿をペロリと完食した我がマネージャーは最強だな、と悟るのであった。




・・・




「普通だったな。」
「どこがよ。」

花巻と松川はもともと方向が違うため、先に歩いてもらった。瑞穂には悪いが、用事がある、と言って先に帰ってもらった。
用事を済ませると、すぐに帰宅するのが瑞穂。
それを理解した上で、駅の上にあるコーヒーショップで待ち合わせをした。それに元々駅方面でもない。

先についていた花巻と松川は、食べ過ぎたのであろう、いや、胃がもたれたのかもしれない、大人なブラックを飲み干していた。
たまには遊びに行こう、なんて気まぐれなものではない。今日の朝、事前にお願いしたのだ。
あたしや楓だけでは、気を遣われている、と瑞穂なら申し訳なく思ってしまうから。
そう。瑞穂は元気があるどころか、元気すぎるくらいだ。

「空元気。楓並みにテンション高いとか、無理しすぎよ。」

大人しいタイプの瑞穂。
楓に合わせることもあるけれど、素はこっちの方だから。自分からはそんなにテンションを上げない。

「別れよって言ったの、柳野からなんだろ?その割にはってこと?」

今度は水を飲み干して、花巻が聞いた。

「正直、あたし、あの馬鹿主将の良さがまるでわからないから、瑞穂の気持ちに同調できないけど。本当に何かあったら相談するもの、あの子。それを決めずに勝手に、よ。傷つけるようなこと言ったのよあの馬鹿。」

自分で言うのもなんだが、大親友だ。そう思っている。中学からの付き合いだし、互いに悩んだときは相談している。

及川が好き、とその場の流れの恋バナで言ったときだって、「私なんて目にも入ってないよ。」と少し悲しそうに言ってた。けれどもそのあと、ちょっと頑張ろうかな、とか、3人で盛り上がった。
結局、見てるだけでいいと奥手な瑞穂らしい答えになったけれど。

「…及川、彼女よく変わるけど、歴代と扱い違ったと思うけどな。あれ、大切にしてた、てことじゃないのか?」
「わかってない…花巻はわかってないな。」
「は?」

残念な花巻に首を振って否定する。
手も繋がない、デートの回数も少ない。それを大切にしてる、だぁ?

「確かにデートはしたかもね。でも、手も繋がない。会話のない帰り道。それってさ、付き合っているに入るのかな?」

そんなもの、今までとさほど変わらない。瑞穂は隣に居れるだけでいい、と言っていたけれど。
二人きりで会うことだけが増えたそれは、幼馴染でも、女友達でもできるんじゃないの?

「付き合い方はそれぞれだと思うけど。」
「じゃあさ、松川。今まで、あいつは聞いてもないのにべらべらとノロケ話をしてた。それが一切ない。それってどういうこと?何もしなくてもいいっていうのが瑞穂だけど、及川はどうなの?」
「…それもそうだよな。」
「及川が瑞穂に影響されたってこと?そんなに簡単に影響されるようなやつじゃないでしょう?」

及川徹。どちらかというと嫌いなタイプだが、こう何年も同じ部活なら、少なからずあたしでもわかるところがある。
馬鹿みたいに一直線、な割にはどこか恐怖を感じるような。
あたしらなんかじゃわからない、どす黒い何かを飼っている。食えない男。

「じゃあさ、結局、唯川は何を言いたいわけ?」

状況をまだ理解できない花巻に、小さい声で答える。

「初めから、瑞穂なんか好きじゃなかった。」

推測だけど。
推測だけれど。
声が震えた。





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