幼馴染ちゃんと元カレくん
ああうざったい。
苛々する。
用事を済ませる気も失せ、一度家に帰った。けれど、この気分が治ることもなく、風に当たりに外へ出る。
時計の針は23時を回っている。こんな遅くに知り合いは歩いていないだろう。
安心したのもつかの間、見慣れた後ろ姿をみつけた。
「楓。」
そう呼ばれた彼女は、びくりと肩を揺らしてこちらを見る。その驚いた顔は、まるでいつも通り。
でも何も言わずに歩きだそうとする。
「無視かよ。」
そう告げれば、また肩を揺らしたが、何も言わずに歩き出した。
「待てよ。」
そう言って腕を掴む。痛っ、と小さな声を上げたが、知るもんか。
「こんな遅くに何してるのさ?危ないでしょ。」
こんな時間、うちの方面はもう人通りがない。まだ高校生、それに女の子なんだ。心配だってする。
それなのにこの子は目を合わせようとしない。
「…コンビニ、行こうかなって。」
それこそ今思いつきました、と言わんばかりのぎこちなさで答えてくる。
嘘が下手なくせに。
人を嫌うのを嫌がるくせに。
…俺を拒むんだね。
「楓は大嘘つきだね。」
ほら、びくってした。
「何一番被害者ぶってるのさ?」
なにも答えない。
「申し訳ないとか思っちゃってるわけ?自分が、」
「違う。」
「違くないね。」
俺とお前は幼馴染なんだよ?岩ちゃんだけじゃない。幼小中高と、見事なまでに同じでさ。わからないわけがないじゃないか。
「なんで別れたの。」
「さあ?俺が振られたんだし?」
「引き止めなかったの?好きなら止めるんじゃないの?そんなにあっさりいくものなの?」
ねえ、それ。どんな気持ちで言ってるわけ?疑問なの?誰のために聞いてんの?
「その答えを聞いてどうすんの?」
「…だって。…変、」
「まさかよりを戻せっていうの?本当は好きなのに何かの妨害、的な?そんなご都合主義、漫画じゃないんだから。」
あ、ムッとしてる。
すぐ顔に出るんだから。
「楓は俺と何年一緒なわけ?俺の性格、わからないわけじゃないでしょ。どこが変なの?むしろ続いたほうじゃん。俺が一方的に聞かずに振ったなら、怒る気持ちはわかるけど、俺は振られたの。一応傷ついてんだよ?それなのにみんなして俺のせい俺のせいって。」
「それは及川が」
「その呼び方やめろよ。」
前までとーるとーるって呼んでたじゃないか。いきなり他人行儀なのやめろよ。
「本当に、俺が、悪いのかな?」
区切り区切りに言う。楓は目をそらす。それこそ顔を青くして。目線を右下にずらして。
そう。逃げたいときの目。
「ねえ?楓。」
早くこの場から逃げたい。次の言葉を聞きたくない。そう思ってるんでしょ。
だめだよ。
「君が推さなきゃ、」
こんなことにはならなかっただろう。
だって、微塵も興味なかったんだもん。
柳野さん。なんて。
大人しくてバカ真面目で面白味のない子。
他に気になる子だっていたし。
「…でも付き合ったじゃん。」
「それは楓が推したからでしょ?」
そうだ。
楓が、柳野さんを推したんだ。すごくいい子だ、と。
お似合い、だと。
それはどんな気持ちで言ったの?
柳野さんが俺に好意を寄せてるから?
どんな女子でも見境なく付き合う男だと思ってるの?
活発な子が好きだって言ったじゃないか。
いい子。ああ、いい子。良くも悪くもいい子の鏡だね。
でも俺が好きなのはそんな子じゃないし、こんな奴には似合わないだろう。
「す、好きだから…付き合っ」
「違うよ。」
その顔が、困惑から怒りに変わる。
「なに、それ」
「何度も言っているじゃないか。」
どうしてわからない?
どうしてわかろうとしない?
いや。わかりたくないの?
「俺が好きなのは、」
「ち、」
目をそらして逃げようとする。
無駄だよ。昔から逃げ出せなかったじゃん。
君は女の子なんだから。
「楓。」
「ちがう。」
「俺が好きなのは、楓だよ。」
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