幼馴染みちゃんと男子バレー部


昨日、バレー部の練習は崩れた。
直ぐに入畑監督が来たので、そのあとは持ち直したが。
及川を総バッシングしていたんだ。原因はあいつ。
別れた、と言っていたから、柳野と別れたのだろう。

去年のいつからか、及川は柳野を「瑞穂ちゃん。」と呼んでいた。やたら女子人気の高いこの男、彼女が変わるのは頻繁。
作らない時期は本当に作らないが、いた時期は一ヶ月で終わる。持って三ヶ月。
どの子も少しケバい感じの、お前高校生のくせにやたら背伸びするよな、みたいなギャル。
それこそ互いが遊びだという感じで、そこに誠実さは、悪いが感じられなかった。
柳野、なんて控えめ女子はありえないと思ったし、柳野自身意識ないものだと思っていた。
もっとふさわしい相手がいるのだと、思った。
けれどいつしか付き合いだした2人は、どちらも慢心せず、それこそひっそりと付き合っていた。聞けば答えるが、惚気、というものはなく。

「昨日はごめんねー、まきまき、部活ぶち壊して。」

二、三日前、騒ぎまくっていた米原は、今は落ち着いたのだろう、申し訳なさそうに頭を下げた。
他の2人は生徒会の仕事があるとかで、朝練には不参加だ。

「お前のせいじゃないだろ。」

落ち着いたとはいえ、気を落としている米原は、ハァと深いため息をつくだけだった。

「楓、スコア付け。」
「あ、うん!ごめん!」

岩泉に言われ、慌ててコートへ走っていく米原。マネージャー3人は仲がいい。3人で行動していることが多いのだ。1人でも欠けると元気がない。

「米原に当たり強くね?」
「やらせた方が紛れるだろ。」

家が隣同士の幼馴染だったか。
つまりはずっと一緒なわけで、扱いには慣れているんだろう。
俺らが変に気を使うよりは、岩泉に任せればいい。変に首をつっこむと、さらに部活が乱れる。
IHだってあるのだ。
立ち止まれない。








「楓。」
「やだ。」

会話は終了した。
隣でドリンクを飲みながら主将が話しかけてくる。見えない聞こえない。

「ねえ、」
「話しかけてこないでよ、仕事溜まってるんだから。」

今、どんな気持ちで話しかけてるわけ?
瑞穂のことは2人だけの問題だから、普通に話しかけてくるの?

「スコア間違えてるよ。」
「…しね。」
「ひっど!!俺正しいこと言ったのに!!」

間違えてないし!気を引かせようとわざといじったんでしょ?!性格悪いやつ!

「しかも俺のせいにしたでしょ?!俺がいじったと思った!」
「うるさいな!話しかけてこないでって言ったじゃん!」
「お前ら何やってんの。」
「まつまつこいつうざい!」

松川が止めにくる。悪いのは自分じゃない、あの薄っぺらい男だ。勝手に話しかけてくるから。…これ以上話しかけてきたら、自分がダメになる。

「あー…じゃあ米原裏方やってよ。資料とか溜まってるし。」

国見あげるから、
そう言われた時の国見君の顔は、とても面倒くさそう。

「じゃあ俺が行くよ。」
「お前が付きまとうから剥がしてるんでしょ。」
「ヒドっ!なに?寄生虫みたいに言わないでよ!」
「それに主将が離れてどうすんの。」

うっ、という及川の唸り声。
部活に支障をきたすものじゃない。
なんて、…説得力もない。

「じゃあいきましょ、先輩。」
「うん…。」

国見君に言われ、足を進める。いい加減にしなくちゃいけない。
マネージャーは補佐だ。サポートしなければいけない。
部を乱すなど、なんと最低な。
一番辛いのは好き合ってた2人、なのだから。





・・・





「……。」

裏方の仕事、と言っても、優秀な生徒会が大方片付けてくれている。
自分は成績が悪い方なので、こういう事務関連は苦手なのであの2人がやってくれている。
代わりに自分は外の仕事、スコア付けやネット、ドリンクとか。

「とりあえず備品確認しとこうか。」
「そうですね。細かい作業は昨日やってくれたみたいですし。俺らも備品チェックしたら戻りますか。」
「…うん。」

備品チェックノートを戸棚から出して、私達は一つずつ確認していく。正の字で残りを書き込んでいき、足りない分は買い出しだ。
黙々と数えていく中、唐突に国見君が口を開いた。

「すごかったですね。」
「え?何が?」
「唯川先輩ですよ。あんな剣幕で怒鳴るところ初めて見ました。」
「そうだね…」

普段の菜々実は冷静で落ち着いている。けど意外と喜怒哀楽はハッキリしている方だ。ただ表立って見えないだけ。

「瑞穂は親友だもん。菜々実は大事な友達が傷付いたら全力で怒る人だよ。」
「先輩は?」

シャーペンの芯が折れた。中途半端に書かれて歪む正の文字。

「米原先輩はどうなんですか?」
「アイツへの制裁?月バリでブッ叩いて弁慶の泣き所蹴ってやった。」

早口になってしまったのは、アイツのへらへらした笑顔がムカついたから。

「なんで別れたんでしょうね。」
「知らない。あのバカがなんかやったんだと思う。瑞穂は話してくれないけど、たぶん、というか絶対。」

そうじゃなかったら、瑞穂から別れを告げるはずないんだよ。ほんと最低。幼馴染みながら腹が立つ。
でも。そもそも私が瑞穂を推さなかったら…泣かなかったのだろうか。
片思いしていたときのほうが良かった、と思うのだろうか。

いや、両思いになったほうがいいに決まってる。
この半年、瑞穂は幸せに笑っていたのだから。
アイツだって瑞穂を邪険にしていたわけじゃないだろう。女たらしだから、女の扱いには慣れている。大切にしてくれる。瑞穂も大切にしてくれる。…だから。

「やり直してほしいですか?二人に。」

そう聞いた無気力な彼の目が、あやしく光った。


「…え、」
「俺はお二人がお付き合いしてるところ、見たことないですけど。やっぱりやり直してほしいものですか?」

その時なにも返せなかった。
情報が追いつかなかったからだ。
それに、この国見君が言うなんて、意外中の意外中だったから。
他人に興味がなさそうだし、面倒ごとは首を突っ込まないタイプ。
そう。純粋な疑問なんだろう。
だから、なにも返さなかった。




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