主将くんと生徒会長さん

「一本ナイッサー!」

響き渡るシューズ音。弾むボール。
仁王立ちの生徒会長に、身動きの取れないバレー部主将。

「…えへへ。」

場を和ませようと苦笑い。

「……。」

撃沈。
幼馴染の怒りはなんとかなる。彼女は怒りよりも涙の方が上回って泣いてしまう。だからあまり怒られはしない。少し乱暴だが、全然痛くない。
だが、この目の前の人は違う。
お互いが無関心できたため、怒らせたことはない。

俺のこと、どうしようもない男、としてしか意識に入れていないだろうし、こちらとしても幼馴染の親友、とだけしか認識していない。
確かに成績優秀で美人ではあるが、付き合う、というビジョンは湧かなかったし、これからもわからないままでいい。

「…ははは。」

かれこれこの状態が5分は続いている気がする。…いや、本当は数秒かも知れないが、俺の中では五分だ、絶対。
自分の代わりにしきる副主将に目を向ける。
ああ、もう、楓と仲良くしちゃってさ。
目を向けてもくれやしない。…誰も。
唯一金田一が申し訳なさそーに、目をキョロキョロキョロキョロ、…お前は見るな。


「泣かせるほどには追い詰めたんだ?」
「へ?」

唯川さんが突然口を開いたもんだから、間抜けな声が出てしまった。逆に彼女は淡々としている。
成績優秀で支持率も高く、どこが優雅さがある、と評判の唯川さん。
マネージャーとして、そして、生徒会長として、部活の話はするけれど、終わったら話を作りに来るのはいつも楓。
彼女がいなければ、話さない。そういう仲だ。

「泣かせるような付き合いをしてたのか、って聞いてんの。」
「・・・。」

彼女はどこか、心の底で眠っている何かを湧き上がらせるような、変な気持ちにさせてくる。
それがすごく。


気味が悪い。


「だって瑞穂ちゃんて真面目すぎるんだもん。ちょっと面倒だなぁって思ってたところあるし。別れ話切り出してくれてラッキーみたいな?」

少し答えになっていなかったかも。
けれど目の前のこの子は眉を引きつらす。その一瞬さえ、きっとちゃんと見てなければわからない。

「少し顔がいいからって調子に乗ってんじゃないわよクズ。」
「クズ…って」
「よくもまあそんな気持ちで、女の子と付き合えたもんだよね。」

その拒絶するような目、蔑む目。
噂で広まる彼女から、出ないであろう表情。
そうだ。
人間みんなこんな部分があるんだよ。

「瑞穂ちゃんも瑞穂ちゃんだよね、よくこんな男を選んだよ。自分が似合うと思ったのかな?」
「ふざけるなっ!!」

その声は響き渡る。
普段怒鳴ることのない彼女の、少し低めの声。ざわつく体育館。

「菜々実ちゃんっ!!」

駆け寄るのは大親友。
俺を振ったその人。

「あんたは人の気持ちがわからないのか?!どんな気持ちで付き合ってたと思ってるんだ!」
「菜々実ちゃん!もういいの!」

瑞穂ちゃんは唯川さんを後ろから抱きしめる。
少し声が潤んでたけど、泣くのかな?

「そこに感情がないのなら!付き合うわけがないじゃない!!」
「菜々実ちゃんっ!!」
「似合う似合わないの問題じゃない!!好きか嫌いかでしょうが!」

さすがは大親友。まだまだ、まだまだ言い足りない、といったところか。

「菜々実ちゃん…もういい。……もういいから。」

消え入りそうな声で、つぶやいた。
嗚呼、そういう表情だって、見せてはくれなかったよね。

「テメェは何人泣かせたら気がすむんだクソ及川!」
「ゲフゥッ!」

横から何か衝撃が来たんですけど?!
まあなんなのかはわかる。頭めがけてグーパンチだ。乱暴だ。

「いっっったいよ岩ちゃん!」
「これだけで済んでありがたいと思えよクソ及川。」

それだけ告げて幼馴染はマネージャーの元へ行く。そうだよね。

「もういい、菜々実。」
「泣いてないけど?あたし。」
「わあってるよ。こんな奴にもういい。」

愛しの彼女の事を庇うよね。100パー俺に非があるし。それは当然。当然のこと。
ああ、嫌だなあ。
岩ちゃんまで。

「ごめんねっ及川君。もう終わったことなのに。」

申し訳なさからだろうか、瑞穂ちゃんが謝る。
終わったのならもう話しかけてこなければいい。なんでわざわざ律儀に謝る。

「…ったい。」

ああ、うざったい。
そういえばもう1人は止めに来ないのかな?号泣したあの子は。


「先輩、どうしたんですか?」
「ううん…なんでも…ない。」

目を向ければ青ざめている。
そうだよね、自分が勧めなければ、こんなことにはなからなかったんだ。
きっと存分に後悔するんだろう。

「でも、顔青いですよ。」

普段無気力の国見ちゃんに心配されてるんだ、その顔色の悪さは異常。
首を横に振るだけで、仕事の続きを始める。ドリンクを持つ手は震えてる。
弱いくせに、変に先輩振るんだ。
多分昨日、また泣いたんだろう。どうせ頼れる幼馴染が、家も隣だし励ましに来たんだろう。
俺1人仲間はずれにして、こいつら全員で話を広げて。人の意見など聞き入れないだろう。


ああ、

「うざったい。」




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