「あのさ、冬子」
「何よ」


AM6:00
息が白い。そして首が痛い。


「そろそろマフラーから手を離してくれませんかね?」
「いやよ、あんた逃げるでしょ。」


佐竹冬子様がお迎えにいらっしゃいました。

まさか本当に迎えに来るとは思わなかった。しかも5:30に。まだ夢の途中だった。て言うか夢サイト漁ってたから寝たの3:00なんですが。眠いんですが。めちゃくちゃ怒ってるんですが。


「に、逃げないよ。」
「嘘。」


wow!めちゃくちゃ怒ってる!もしかして、昨日の事バレたのかな…西谷め。
いや、多分バリボー主将だな。


「夏乃、何かを紙飛行機にしたんだって?」
「え…」
「しかもそれを誰かに飛ばしたんだって?」
「いや…手が滑って…」


なんて苦し紛れの言い訳?にもなってないな。
その発言にマフラーを掴んでいる手を、冬子は思い切り引っ張った。


「うげぇっ」
「このまま土下座させてあげましょうか?」
「ごっ、ごめんなさい!」


だったら自分からやらせていただきますわ。
コンクリートだから足が痛い。散歩中の木村さんがドン引きしておる。「あら仲良しねぇ」とかそんなにこやかにいうとかおま、目腐ってんのか?恐怖政治だよ、


「あんたねぇ!しゅ…主将が!ど!れ!だ!け!怖いか知ってる?!」
「だ、大地バリボー主将先輩か!」


優しそうな顔してるのに?!


「その呼び方やめなさい!声を荒げるとかじゃないけど、空気がっ…空気がヒヤッとしてドッとぞわっとすんだから!」
「擬音じゃわかんないよー。」
「ハァ?あんたじゃないんだからそんな残念な言葉使いはしない!」


…えぇ、冬子ひどい。
バレー部楽しいよ、みんな優しいよ、入ろうよとか言ってしつこく勧誘してきたくせに!主将先輩に対してめっちゃ切羽詰まってる!いつもと違うべ!いつもと…。


「…怖いの?」
「あんたじゃ耐えられないくらいにはね。」
「じ、じゃあ入部やめるっ!」
「逃がすか!」
「ひー!」


マフラーを掴むのはやめようよ!逃げられないよ!前で巻いてるから両サイド掴まれてるから!痛い痛い!そんな引っ張らないで!


「おー?今日の佐竹は乱暴だなー。」
「す、菅原先輩!?」


気がつけばもう校門の前だった。昨日見たキングダム先輩が おーす、と手を挙げていた。 


「なんでもうジャージなんですか?」
「へ?あっ…いや?!早く来て、ロードワークの帰りっつーか、なんというか…(危ねえ…)」


キングダム先輩の視線が落ち着かない。さてはこの人、嘘が苦手だな。


「つーか朝練から連れてきたんだ?橋沼さん。」
「ひっ…」
「またひっ‥かよー。」
「人見知りなもので。」
「そっか。」
「先輩に失礼な態度とらないの。はい謝って。」
「ごめんなさい。」


間髪開けずに素直に謝る。
土下座指定じゃなくてよかった。そんなことさせられたら本当に入部やめるよ。


「いや!気にしてないから!」
「でもこいつが菅原先輩に失礼な態度をとったことには変わりないので。」
「いいから!ほらっ橋沼さんも頭あげて。」
「いや、でも冬子が…」


勝手にやめてまた怒られるのも嫌だし。


「まぁ菅原先輩が言うなら…」


さすがに先輩の言葉には素直だね。


「今日から参加してくれるんだべ?よろしくなっ」
「あ、はい、よろしくお願いします。」
「マネージャーは朝練強制じゃないから午後練からでよかったのに。」


なんだと…!


「でもできることはあるので。」


朝練もう来ない。強制じゃないなら別に怒られないしいいべ?


「ありがとな。橋沼さんも眠いだろうにありがとう。」
「いえ…」


…それにしても、キングダム先輩やたらニコニコしてるなぁ。爽やか系男子?あれか!女子が3年にめちゃくちゃ優しい先輩がいる、とか言ってたけどこの人かな?


「キングダム先輩モテますか?」
「え、」
「夏乃。」


…しまった。またあだ名で呼んでしまった。
あはは、後ろからの視線がいたーい。夏乃死んじゃう☆


「橋沼さんっておもしろいなー、菅原孝支。スガでいいよ。」


…怒られなくてよかった。

菅原先輩は笑顔で頭を撫でて、「行くべ」と言って歩き出した。


- 5 -
[*前] | [次#]