宮城県立烏野高校、男子バレーボール部に、新しい風が吹こうとしていた。今はまだ、微々たる風ではあるが…。


「田中、眠そうだね。」


2年1組、佐竹冬子は大欠伸をこいている田中龍之介に告げた。
田中はふぁーっと間抜けな欠伸をもう1度し、「おう、」と力なく答える。


「耐えろとは言わないけど、せめて隠さないとさすがに注意されるよ?」
「おー…」
「なんかあったの?」
「いや、最近早くてよー。」


一応授業を受けるつもりはあるらしいが、ちらりと覗いた田中のノートはほとんど白紙のままだった。


「朝練はいつも通りでしょ?」
「いやっその、なんか早く起きちまってよぉ」
「確かにいつも遅刻ギリギリなのに、鍵当番やったり、違っても私より早いよね。…田中、あんたなんか隠してない?」
「へあ?!そんなことねーよ。潔子さんに誓って!」
「潔子さんに誓うって…あんたバカなの?潔子さんは愛の女神であってゼウスじゃないの。誓うならゼウスかキリストか主将か旭さんに誓いなさい」
「は?」
「まぁそんなことはどうでもいいんだけど。田中は授業態度で点数稼がないと内申ヤバイんじゃない?」


板書しながらそう話す佐竹は、至極どうでも良さそうだった。
田中も話しているうちに頭が冴えてきたのか、ようやく転がしていたシャープペンシルを手に取った。


「あとでノート見してくんねぇ?」
「今からちゃんと板書するなら考えなくもないけど?」
「購買のチョコチップメロンパン」
「ミルクティー付き」
「わぁーったよ。ったく」
「それはこっちの台詞だって。あんたが授業中なにしてようが関係ないけど、最終的に私を巻き込まないでよね」


相変わらず冷え奴だな、と田中は心の中で悪態をつき、へいへい、としぶしぶ返事をした。


「佐竹こそ、例の新マネの話はどうなんだよ。最近はまったくその話しなくなったじゃねぇか」


1年になったら新しいマネージャー入るよ、などとドヤ顔で言っていなかったか。


「ま、まあ…もうすぐだから」


聞かれた佐竹はバツが悪そうな顔で答える。

マネージャーは入る。何度も遠目にだが見学だって来てる。本人もやりたいと言っている、と思う。名前を言えば田中だって誰かわかるだろう。

はぁ、と佐竹は隠すことなくため息をつくのであった。


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