放課後。
朝練の時にはできなかった準備を夏乃と2人で進める。

通常の授業で滅多に使われることがない第2体育館は、基本的にネットを緩める程度でほとんど片付ける事がない。しかしこの日はなにか使う用事でもあったのか、朝練の後にポールやネットをすべて取り払っていたのだ。


「ちょっと夏乃!ちゃんと持って!」
「持ってるよ!これ授業だったら3人で持つやつだよね!」
「うっさい!2人で持つの!」


初めて知ったけど、夏乃の腕力のなさ!
え?授業で片付けとかするよね?まさかサボってないよね?普段からゲームばっかりのインドアとは知ってたけどなにこれ非力すぎ!女子か!女子だ!


「い…っ」


まさか夏乃がこんなに非力だと思ってなかった。


「手伝おうか?」
「あっ」
「大丈夫だから、縁下は木下と成田手伝って。」


これくらい2人で持てるし。


「女の子が2人で持ってるのに俺たちが3人で持つのもちょっと…」
「じゃあネット。こっちは2人でやる。」
「えー‥」


準備早く終わらせなきゃ練習時間減るじゃない。マネージャーが選手の手間を取らせてどうすんのよ。


「ほら早くっ」
「…怪我はしないようにね?」
「私は今更しないけど、夏乃気を付けてよ?」
「何をどう気を付けんですかぁ〜ってゆーか重いからぁ〜!」
「あ、ごめん。」
「ほらもうちょっと!頑張る!」
「頑張るーっ!」


早くと急かす夏乃はポールの上の方。たぶん、こっち側を持たせたら変に手を挟むかもしれなかったから。初心者だからね。


「そっち持ち上げて。」
「うん。」


1度ポールを床に置いて蓋を開ける。
夏乃は持ちっぱなしになるから大変かもだけど、怪我するよりはいいでしょ。


「真っ直ぐにするからね。」
「わかったー。」


夏乃には落ちてこないように支えてもらって、ポールを立てる。

これ、もし夏乃にさせてたら手も一緒に入れてそうで怖いわ。指落ちるって、中学のとき脅かされたなぁ…


「大丈夫だった?」
「おお!力さん!」


夏乃の声に振り返ると、縁下がポールカバーを抱えて立ってた。


「あ、ソレ忘れてた。ありがとう。」
「どういたしまして。橋沼さんが怪我してなくてよかったよ。」
「運ぶだけなのに怪我なんてしないよ!いくらなんでも心配しすぎじゃないですか?」
「いや、初めての人って見てるだけだと不安になるし。」
「授業でもやったことあるしっ」


縁下はカバーを抱えて夏乃と話始めた。

私はただ突っ立ってるのも暇だから、縁下が持ってきたカバーをひとつ持ち上げて反対側に行く。


「佐竹!?」
「なんでっ!?」
「あれ?ネットまだだったか。ならネット持ってくる。」
「いいよ!俺、今取ってくる!」
「悪い成田!」
「ありがとー。」


なんで縁下はカバーを先に持ってきたのか。ネット持ってこいっての。私がネットもついでに持ってくればよかったか。

と言うか!1年はなんでまだ来ないのよ!普通早く体育館に来て!鍵が開いてなかったら体育館の前で待ってて!率先して準備するでしょうが!重役出勤か!社長か!


「な、なんかイライラしてる?」
「別にそんなんじゃないけど、モヤッとする。モヤッとボール投げたい。」


実際あれって本当にスッキリするの?しないよね?フラストレーション溜まって爆発しない?それならぬいぐるみ殴る方がよっぽどスッキリすると思うのは私だけ?


「佐竹って少しネタが古いよな。」
「木下って普段あんまり話さないけどさ、意外とはっきり言うよね。」
「ごっごめん!嫌だった?!」


ああ、不機嫌なまま返事しちゃったか。


「全然全く気にならない。いいんじゃない?言いたいこと言っても。」
「それならよかった。」


言いたいことは言わないと体に悪いからね。溜め込みは良くないよ。
ただ、それをいつ言うか、どこで言うか、どうやって言うかがまた難しいんだけどね。


「待たせてごめん。」
「ありがと。ちょっと休憩になったわー。」
「そう言えばマネージャーは休憩ないもんな。」
「たしかに。」
「ごめん。よくサボってるわ。」
「マジで?成田、俺向こうやってくる。」
「サンキュ。」
「成田も木下も悪いね、ネットまでやってもらって。」
「こっちこそいつも助かってるから。ありがとう。」
「いいえ。準備も仕事のうちだから。」


成田がネットを張る間、向こう側を見ると縁下が少し慌ててた。

ネット忘れてたんだね。そんなこともあるよ。でも縁下がうっかりなんて珍しい…と思ったけど私が知らないだけでよくあるのかな。


「あ、こことめるよ。」
「ありがとう。」


上の方は少しばかり身長が足りなくてうまくとまってるか見えないからね。成田頼んだ。


「カバーはやっておくから、手の足りない所やっておいてよ。」
「あ、うん。じゃあよろしく。」
「やることなかったらうまくサボっておきなよー?」
「それはさすがに怖いからやめとく。」


主将は怒ると怖いからね。

カバーを着けて外れないか確認して、ポールを1つ叩く。
…よし。1番上が不安だけど、たぶん確認は手の空いた縁下がやるはず。そうじゃなくても違和感があれば誰か気付くはず。
あとはボール出して、潔子さんが使うパイプ椅子出して、得点板は必要かな?3対3ならまた出来るけど…


「主将。」
「お?どうした?」
「今日は得点板使いますか?」
「あー…そうだなー。」
「使う可能性があるなら出しておきますけど。」
「うーん、でも使わなかったら佐竹に悪いしなぁ。」
「気にしないでください。せっかく1年も来るし、いつでも使えるように出しておきますね。」
「悪い。」


倉庫の中から得点板を引っ張り出す。準備はできたのか、各々が確認やら話をしている。

なんか菅原先輩と田中がキョドってるけど、どうかしたのかな?


「よし、今日から入部の1年を紹介するよ。」


やっとくるのか。
準備も終わって校舎と繋がる入り口を見てると、扉が開いた。


「宜しくお願いしまぁーす!」


来たのは金髪眼鏡と黒髪のアンテナ。


「でかっ!」


夏乃はそう漏らして、とっさに後ろに隠れた。


「ちょっと、ジャージ引っ張らないでよ。伸びちゃうじゃない。」
「だ、だって…」


小動物か!
…まあ確かにでかいよね。特に金髪の子。190くらいあるのかな…?


「月島蛍です。」
「山口忠です!」


金髪の月島はだるそうに、一方アンテナ山口はちょっと緊張気味に言った。

うーん…どちらかと言えば山口の方が月島より小さいけど、それでも主将より身長ありそうね。


「ん?どうした橋沼、佐竹。確かにあいつらは背、高いけど、」


怖くないよ、なんて主将が肩を叩いてきた。

いや、確かに主将のことは見たけど、そんなに怯えてないよ。
なんでだろう。主将は身長高くても安心感があるんだよね。


「あと田中その顔やめろ。」
「あいてっ」
「それじゃあ自己紹介といこうか。全員整列!」


主将の声でみんながきっちり動くこの感じが、私はやっぱり好きかもしれない。団結してるって言うか、運動部って感じ。


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