澤村は耳を赤くして、足早に歩き出す。ろまんちしゅしょー、と菅原はからかいながら、後ろについていった。

「実った恋…か…」

桜の木を見つめ、佐竹はまた呟いた。主将、素敵なこと言ってたなぁ。

「センチメンタル冬子。」
「その芸名みたいな呼び方やめて。」
「よっ!センチメンタル佐竹!」
「あ、山田。」

澤村達が見えなくなった頃、後ろから2年生がやってくる。

「だから山田じゃねえよ。田中だコラ。喧嘩売ってんのかコラ。買いましょうかコラ。」
「やめろよ田中。女の子に。おはよう橋沼さん、佐竹さん。」
「力さん!あ!な…なり…き、…成下おはよう!」

田中の威圧顏を見ないように、佐竹の後ろに隠れる橋沼。

「なぁ橋沼、成下って明らかに1人呼んでないの気づいてる?」
「うちはえっちじゃない。」
「なんの話だよ。」

佐竹の後ろにいる橋沼に視線を合わせて木下は言う。

「夏乃、その話は1個前でしょ」
「そーいや橋沼。ノヤっさん元気?」
「橋沼家にノヤっさんさんはいないよ。」
「さんにさん付けするのやめようよ。」

あまりに目を合わせようとしない橋沼に、田中は傷つきながらも話しかける。が、やはり目は合わない。

「ちげぇーよ。ノヤだよノヤ!お前3組だろ。同じクラスだろ。」
「だっだだだからうちのクラスにノヤなんて人いないよ!」
「ノヤだよ!西谷!西谷夕!」
「え。」

西谷、という名前を聞いた途端、橋沼の声のトーンが、一段、低なる。

「どうしたの橋沼さん。」
「に、にににににっ西谷、」
「どうしたの夏乃。」
「ううう、た、田中!さん!」
「だから田中…合ってるか。さんはいらねえよ。」

少し涙目になりながら田中に話しかける橋沼。また、山田と呼ばれることを覚悟していたが、正しい名前に、ちょっとひるむ。
しかし、だ。なぜ、そこまで西谷に過剰反応するのか。

「田中すっさん!に、、西谷とどういう関係なの?!」
「浮気調べる彼女かよ!」
「はぁぁぁああ?!彼女?!うちが?!西谷の?!…鳥肌立った。」
「え?西谷のこと嫌いなの?」

田中のツッコミに、本気で怒り、鳥肌まで立てる橋沼。勘弁してくれ。
縁下が不思議そうに聞く。

「夏乃、あーいう暑苦しいタイプ苦手だっけ?」
「いや…確かにノヤっさんはちょっと暑すぎるけどよ。」
「田中もだよ。」
「なぬっ?!」

第2のダメージを田中に与えたところで、橋沼は謎の屈伸を始める。

「田中、女子に嫌われてるもんね。」
「ひどい!」

佐竹の冷たい1言に、更に傷を抉られる田中。

「なあ橋沼。西谷、悪い奴じゃないよ。」
「そうそう、男前だよ。同じ男として見てもかっこいいよ。」

木下と成田が慌てて西谷のフォローに入る。
しかし橋沼は首を横に振るだけだった。

「…ああいうやつ、嫌い。」
「そ、そっか。」
「うわぁぁぁああ!ヤな名前聞いたー!!」
「あ!こらっ待ちなさい夏乃!」

叫びながら猛ダッシュで橋沼は駆け出した。

残った2年生達は、『西谷がバレー部だということはギリギリまで言わないことにしよう』と決めたのであった。


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