「冬子〜。」
「何?」
夏乃がこっちにかけてくる。
あのねー、といった後、横にいる月島に気付きびくりと肩を揺らした。
「うわ!でっかすぎて気づかなかかか!」
しかも盛大に噛んだ。
そのまま夏乃は私の後ろに隠れる。ひー、ひー、と小さい悲鳴を上げている。
「…でっかかったら、逆に気づきますよね?」
「えと、あの、佐竹先輩と橋沼先輩ですよね?」
月島は呆れ気味に言った。山口は改めてよろしくお願いします、と頭を下げた。
確定、山口いい子。そしてわんこ気質と見た。
「うん、よろしく山口。ほら、夏乃も。」
「よよよよろすくっ!」
「(噛んだ)」
「(噛んだ)」
「…あの。」
「なにかな?」
「今の言い方だと、山口とはよろしくしてもいいけど、僕とはよろしくしたくないってことですか?」
山口だけ限定的に話せば、月島はどこか不機嫌そうな雰囲気で見下ろしてきた。
「よろしくしたくないと思ってるやつとよろしくしてあげるほど、マネージャーは暇じゃないのよ?」
むしろそんなやつのためなんかにわざわざ時間を割いていられない。そんな暇があるなら準備や片付けスコア整理とか、掃いて捨てるほどある仕事をする。
メンタルケアは時には外から見た情報をみんなに提供した方がいい場合もあるけど、それを主将を始めとしたチームメイトに伝えた方がうまくいくこともある。もちろん私がやった方が早いこともあるだろうけど。
嫌われてるとわかってて近付くとか、そんなのバカのすることでしかないでしょう?
「だから月島はよろしくしてくれなくてもいいよ。」
そう言ってにっこり営業スマイル。
月島の横でオロオロする山口と、背後から呆れた夏乃の気配を感じた。
だって本当のことだもん。言ってなにが悪い。月島はなーんか頭にきちゃった感じ?わかりやすく表情が歪んだけど、まさか切り返される事は想定してなかったのかしら。
「…よろしくお願いします。」
「はい、よろしく。」
「ツッキー…」
「なに?山口。」
「なんでもないよツッキー。」
すぐに顔に出ちゃうあたり、中学校上がったばかりの子供だなぁ、とか思ってしまう。ま、1つ上なだけだから人のこと言えないし、顔に出るのは後ろのこいつもそうか。
現実から目をそらそうと、唇をプルル、プルル…
「なにしてんの、夏乃…」
「prrr、楽しい。」
「ハァ?こんなとこでやらないの。」
「そちらの先輩は変わってるんですね?なんですか?空気漏れちゃってる、みたいなやつですか?」
「つ、ツッキー!」
こいつはいちいち喧嘩ふっかけてくるのね。何?何なの。かまってちゃんなの?ぐれてるの?プスーってなんなの!
夏乃が「す、すみません」とか後輩に弱気になっちゃってんじゃない!
「こらお前達。どうしたんだ?喧嘩してんならやめなさいね。」
「主将、」
主将が困った顔で来た。
さすが主将はよく見てるね。
「月島。」
「僕は何も。」
「嘘!嘘嘘嘘だね!性格悪い!月島性格悪い!」
「は?」
「ひーっ!」
その顔やめなさいよ。アンタはただでさえでかいんだから女子なら普通ビビる。特にこの人見知りは扱いがデリケートなんだからね。
…せっかく夏乃が入ってくれたってのに。新1年がこれじゃあ…
やっていけるだろうか、烏野。
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