「ネットは俺と田中で張っておいたからたいした準備はないんだけど。」
「そうなんですか?すみません、もう少し早く来たらよかったですね。」


なるほど、先に張ってたのか。なんて思う暇もなく冬子に睨まれる。

うちにしては今日すっごい早く来たんだよ!遅くなったのは土下座させられたからだよ!その時だけ止まったからね。


「いや!偶然俺らが早く来ただけだから!謝らなくていいから!」


ほら、キングダム先輩もそう言ってるべ?だから睨むのやめて!


「佐竹、なんかいつもと違くね?」
「違くないけど。」
「そうかぁ〜?」


山田ってば冬子と仲良いじゃなーい?
ホント、冬子って昔っから男女問わず友達多いよねぇ。


「橋沼さんマネージャーになったんだね、よろしくね。」
「あ、力さん。バレー部だったんだ!ほおお!」
「あ、うん。まあね。」
「橋沼だっけか!俺木下、んでこっちが成田。」
「よろしく。」


木下成田…。きのしたなりた。


「ん。よろしく成下。」
「「混ぜるな!」」
「橋沼さんって変な人だね。」
「直接言うのね力さん。」


遠慮ないのね、力さん。
傷つくわ〜。優しい人だと思ったのに。


「縁下!成田!木下!早くコート入れ!」
「「「はいっ!」」」
「あんたはボールにぶつからないように気を付けてね。半端じゃなく痛いから。」
「うん。」


とは言ったものの、コートのすぐ横しか居場所がない。これからの練習を見て、ボールが飛んでこなさそうなところにいればいっか。


「よーし、今日はレシーブを中心に練習するぞ。」
「レシーブって?」
「相手から返ってきたボールをセッターに繋ぐこと。」
「セッターって?」
「アタッカーにトスあげる人。簡単に言うならチームの司令塔。」
「じゃあ主将先輩?」
「なにが?」
「セッターってやつ。」
「それは菅原先輩。」
「え?なんで?司令塔なんでしょ?」
「うん。でも違う。めんどくさいから自分で調べて。」


めんどくさい言われたよ。でもどっか行ったってことは、なんか準備があるんだよね。

今日は本当に初心者同然、制服だしね。体育座りで端による。
冬子が主将先輩にボールを渡して、主将先輩がネット越しからアターックしてる。それを順番に取りに行っている。山田からだ。…あ、力さん。
キングダム先輩は司令塔だけどレシーブ?もやるのかな。
司令塔ってなんかかっこいい!


「が、がんば!司令塔!」
「司令塔?」


力さんがドリンクを飲みにこっちにくる。


「ねえねえ力さん!すごいね!バッてやってシュッバシーッンって!」


力さんは短くなにそれ、とだけ言った。伝わらないものだろうか。


「あの、さ、橋沼さん?」


力さんはなぜか目を泳がせている。2,3秒くらい目が合うのに、そのあとは右上やら左下やら、キョロキョロしている。


「なぁに〜?」


ごほんっと力さんは咳払いして、ジャージを脱ぎ始めた。なんだ、露出狂か?


「はい。」
「いらない。」
「え。」


なぜジャージを差し出す?たためと?マネージャーってメイドさんか!


「かしこまりましたっご主人様っ」


ハート付きだぞっ!激レアだぞ!


「…何か勘違いしてない?」
「たためってことでしょ?」
「いや…これ、足にかけてなよ。」
「へ?」
「寒いから。」
「寒くないけど。」
「いいからっ!」


なんでだ。荷物番みたいな感じでジャージ番なのか?
そうだよね。ジャージ大切だよね。部員である証明だもんね。
しかし今の今まで着ていたやつを足にかけていいのか?うちの足にだよ?


「俺が着てたやつはかけらんない?」
「いや、そうじゃなくて…」
「じゃあかけててよ。」
「ん。」


じゃ、っと力さんは走っていった。


「ぬくいなぁ…」









「何してたの、縁下?」


佐竹さんが不思議そうに聞く。
はぁ、かけてくれなかったらどうしようかと思ったよ。


「うん。橋沼さんさ、制服だから…」
「…あぁ」


橋沼さんに目をやってから、佐竹さんは納得したように頷いた。


「大丈夫、中ショーパンだから。」
「いや、そうだとしてもさ。」
「何?まさか夏乃のパンツが見たかったの?」
「女子がそういうこと言わないの!」


もう!佐竹さんは女子なんだから!ぱ…ぱ…って!


「縁下って紳士だねぇ。」
「いや、そうじゃなくて…」


こうして話してると、佐竹さんも大概変だよなぁ。他のやつらは知らないみたいだけど。

…変人マネージャーが2人。
清水先輩、大変だろうなぁ。


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