忘れられるもんですかって(越野)



私が跡部先輩から離れたのは半年前、何も言わずにここに来た。転校するって言ってたら何としてでも引き止めたはずだし、多分。…多分。まあ、何も言わなかったおかげで転校した次の日から携帯鳴りっぱなしだった。おかげで着信履歴全部『跡部景吾』。…まあ、嫌じゃないけどさ。

でももう半年も経てば跡部先輩も諦めたみたいだし!今は転校先の立海大附属中学校でえると楽しく学校生活を…やっぱえるはいらない。

「よりくそ」
「えるくそ」
「幸村様まじお美しいじゃんよりくそ」
「良かったねえるくそ」

いつも通りの会話をしながらバッグに教科書を詰め込んで立ち上がるとえるも立ち上がった。またこいつ一緒に帰るつもりか。まあ嫌とは思ってない。えるは嫌いじゃない。っていうのは嘘でやっぱ嫌い。…っていうのも嘘だけど。めんどくせ、もういいや。


校門から出るとなんか開放感に満たされた。あーなんか終わったーみたいな。人が気持ちよく伸びしてる時に脇腹つついてくるえるくそに手振り下ろしたらよりくそとか叫んでたけどまあ無視ですよね。

暇だし商店街ふらふらーって歩いてたら、あれ、誰だっけ、田中?とか山口とかなんか言う隣のクラスの人に会った。えるがニヤニヤしながら「後は若いもんで」とか言って帰ってったから私とその田口みたいな人と二人残されるわけでしてめっちゃくちゃ気まずい。なんでアイツ先に帰ったのまじアホじゃねえのとか思いながら苦笑してヤァとか声出してみたらぎこちなく手振ってイイテンキダネって返してんの。なんなんだよいい天気って今日は曇りだバカが。

「よ、よりちゃん」
「はい?」
「よかったら…お、お茶っしない?」
「…いや、いいです、遠慮しておく」
「そんな拒否らないでさ、ねっ、いいいいじゃん、ちょっとだけ!」

両手を合わせて頭を下げてくる田口クン、まじふざけてんなよって。周りの人の目が痛いんだよここ商店街な。
それからは無理っていくら断ってもしつこいから黙って背中向けて歩きだしたら私の腕掴んでくんの。もうバカかと、アホかと。

「っふざけ、」
「おい」

不意に背後から聞こえてきたなんか聞き覚えのある声にすごく嫌な予感がした。うん、私の聞き間違いだよね。

「何してんだ?アーン?」

うん、ビンゴ。当たってたよ。半年前に聞いたっきりだった跡部先輩の声だよねえって顔確認したら二重ビンゴ、当たってた。っていうか田口くん驚いて固まってるじゃん可哀想に。跡部先輩は私のもう片方の腕を掴んで引き寄せた。まあ当然田口くんの方の手は普通に離れましたけど。

「な、ななな何って、お、お茶にっ」
「こいつは俺のもんだ。勝手に手出すんじゃねえ」
「っ!すみませんでしたっ」

漫画みたいな走り方で私と跡部先輩から離れてった田口くんを見送ると私はその方向に走り出した。

…正確には走り出そうとした。まあ跡部先輩が逃がしてくれるとは思ってませんでしたけど!掴まれた腕をブンブン振ってたら跡部先輩は私を抱きしめて来た。

「…なんで来たんですか」
「お前から来ねえからだろ」
「バカじゃないんですか」
「バカなのは頼、お前だ」
「…ほんと…」

あー、…やばいな、なんか顔熱いし。目が霞むし。別に泣いてない、跡部先輩の前で泣くのは勿論無い、絶対。

跡部先輩は私の顎を掴んで上を向かせた。やっぱり霞んでた。ぼやけて見える跡部先輩がおかしくて笑ったらなんで笑ってんだってデコピンされた。痛くない、優しいやつ。
ごめんなさいって謝ったら何も言わずに私の目から溢れ出てた涙をハンカチで拭ってくれた。すごいふかふかで柔らかくてまた涙が出てきた。

「跡部先輩」
「…なんだ」
「……す、き…です」

ちょっと戸惑った仕草を見せると跡部先輩は私をまた抱き締めてきた。

「たまには会いに来い…寂しいじゃねーの、」

ぼそっと聞こえた声に顔を上げると目元を大きな手のひらで覆われ視界を遮られた。
ぽす、と跡部先輩の胸板に顔を埋めたら頭をくしゃって撫でられた。



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