秋の香りと(ロゼ)

「あ、こひなた」
「こんにちは、財前」
私の隣に座った財前は、いつもと変わらず無愛想な表情をしている。
木曜にして、今週初めての会話だ。
「最近はどうなん」
「あはは、まぁまぁかな」
そう答えれば財前は苦笑いしながら、呆れた声で、更には溜め息を付く。
すると、何故か持っている雑誌のパラパラと捲る手をいきなり止めた。
「なに」
私は疑いのような声を発すると、財前はすっと、私の結んでた両指から左指だけ解いて、自分の指と絡める。
「今日寒いな」
財前は震えるように言ったのだが、まだこの季節。私には暑いの分野に入る。
「今日はあっついよ?」
財前はじっとこちらを見て舌打ちを一つする。何かしたのかな。悪い事したかな。そんな事を思ってごめんね、と謝ると、財前の目線が斜め下へと動く。
「…アホ」
と囁きながら言いつつも、財前は嬉しそうに笑ってみせた。
この笑顔は、私しか知らない。



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bkm
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