机に突っ伏しているひなた先輩を見つめるんは何度目になるんやろか。ぱっと顔を上げたひなた先輩がじっと俺を見つめてくる。その瞳が俺だけの物になればどれくらい幸せなんやろ。
…とか、不純な気持ち持つ俺はまだ自覚が足りひんのやろか。
「財前はどんな女の子が好き?」
不意に投げかけられた言葉に少し驚いた。俺の事とか今までちっとも聞いてこおへんかったひなた先輩が質問問いかけてくれるんとかめっちゃ珍しかったし。少し考えたフリを見せる。俺の事なんか好いてくれてへんひなた先輩に好きなタイプ聞かれて「ひなた先輩みたいな人」とか答えるんは絶対無理やし。
「…家庭的な子っすわ」
そう言うとひなた先輩は考える仕草をし溜息を吐いた。
「じゃあ私財前のタイプでは無いのか…」
苦笑いを浮かべて再び手元のワークに目を移すひなた先輩。別に家庭的やなくてもなんでも俺はひなた先輩が好きなんやけど、とか恥ずい言葉は飲み込んだ。ほんまにひなた先輩が聞きたいんは俺の好きなタイプとかやないんやろーな…とか。他に好きな人居るんやろか…居ったら誰なんやろ。部長とか、謙也さんとか?流石にそれは無いやろ…。もし他のやつが好きなんやったらそれはそれで力になれたらええんやけど、俺から聞くんとか、そんなんは無理や。ただ自分で自分の首絞めるだけやし。
窓の外を見つめるひなた先輩は、誰かを見つけると途端に笑顔を見せる。同じように目を移すと、謙也さんがこっちに向かって手振っとった。ほんま元気ええ人やな、って溜息漏れてしもた。ひなた先輩は俺に視線を移すと俺にも笑った。
「ごめん財前、今日はもう帰るね!」
っちゅーてワーク類をバッグに詰め込んで部室を飛び出した。慌ただしいんはいつもの事やし慣れとる、飛び出したひなた先輩を見送ると俺もバッグを持ち部室を出た。
次の日もひなた先輩は昨日と同じように俺の正面の椅子に座って机に突っ伏しとった。と、思うとバッグからゴソゴソとちっこいポーチみたいなんを取り出して机に置いた。そのポーチから針と糸と布とかなんかいろいろ取り出すと俺を見てにっこり笑った。
「今日は勉強じゃなくてお裁縫する!」
「…おー」
フェルト生地みたいなんに星かいたらはさみで線に合わせて切り取る。ほんでその切り取ったやつを生地に重ねてそれに合わせて切る。っちゅーのを何回か繰り返したらひなた先輩はまた机に突っ伏した。
「あきた」
「早すぎですやろ、何作りはるんです」
手を伸ばし切り取ったボロッボロの布に苦笑しながらもひなた先輩に聞いたらなんか本みたいなん出してきた。その本の表紙には初めての裁縫とか書いてあって、ふせんがしとるページ開いたらまつり縫いの仕方のページやった。まつり縫いとか小学校ん時に習うんになんでまだ出来ひんのやろ…。ほんま不器用な人やな。
「ぶきっちょ先輩」
「うるせ」
「他に出来る事すればええやないですか」
「お菓子作り得意!」
ひなた先輩は机をバンッて叩いて立ち上がった。もうちょい大人しく出来ひんのかな。まあ嫌いやないけど。
「菓子作れるんならそれでええやないですか」
「お菓子だと後に残らないじゃんかあー…」
なんか縫って作れば長持ちするっちゅー事か。確かに菓子とかは食べたら無くなってまうけど。…頭抱え込んでああああーとか言うてはるし。
「誰かにあげるんすか」
「そう!」
「あー…心のこもったもんなら何でも嬉しいと思いますけどね」
「ほんとに!?」
また立ち上がった。目キラッキラさせながら俺ん事見てくる。百面相っちゅーレベルとちゃうやろこの人。頷くとひなた先輩はやったー良かったーとかなんか言いながら裁縫道具片付けてバッグに戻した。
「財前って何が好きだっけ、食べ物!」
「…善哉」
「善哉か…分かった!よし、今日は帰る!」
椅子直して部室から出て行ったひなた先輩を見送ったら今度は俺が机に突っ伏した。なんやねんあの人…。裁縫するとか言い出したときはどうせ謙也さんに贈るんやろとか思ってたんやけどな。俺の好物聞くとかほんまアホやろ…。謙也さん好きなんは善哉やなくて青汁やのに。
俺に作るわけや無いってわかってんのに、まだ諦めきれへん俺はほんまにひなた先輩が好きっちゅーことなんやろか。
もやもやと重たい頭のままバッグを持って部室を出ると帰路に付いた。
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bkm