図書室の一角で見つけた一冊の分厚い本を机に置くと、適当なページを開く。大きな太い字で「蓮華草」と書かれたそのページには、薄紫の可愛らしい花が載っていた。 春に開花し、日本にはかなり昔からあるらしい。紫雲英、とも言うらしく、その由来は遠くから見ると低くたなびく紫の雲のようだから。
「ふうん」
興味無さげに次のページを開こうとするえるの手を、白く細い指が止めた。その手の主を確認すると、えるは椅子から転げ落ちた。
「ぉああぁ!?ゆっきむらくん!!」 「こんにちは、える。この本借りたんだ?なかなか面白かったよ」 「そ、え、そう…」 「うん、…あ、この花なんてどうかな?」
幸村はあるページを開くとえるに見るよう促す。えるは再び席に着くとそのページに目を落とす。
「アジサイ?」 「そう、紫陽花。元は“あずさい”って呼ばれてたんだって。“あず”は集まる、“さ”は真、“い”は藍。本当のの藍色が集まって出来ている花、って意味なんじゃないかな。」 「へえー…」
理解出来ないまま幸村の言葉に相槌を打つえるに、幸村は苦笑いを浮かべる。そして、一つ間を置くと口を開く。
「紫陽花って、えるみたいだよね」 「おいら?」 「花言葉に、“元気な女性”って言うのがあるんだ」
そう言うと微笑みを浮かべる幸村に、えるは顔がぽっと赤くなる。それを見てか、幸村はくすくすと肩を揺らしおかしそうに笑う。
「それに、雨の日でも元気に咲くところとか、ね」
そう付け加えると本を閉じ、元あった場所に戻すとえるに手を差し伸べる。
「さ、もうすぐ部活が始まる時間だ」
ぎゅっ、と手を握ると、えるは立ち上がる。歩き出す幸村の後をついて、図書室を出た。
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