榊柊小説 | ナノ



珈琲の香りと(ロゼ)



「次は…音楽か…」
あのピアノを引く骨張った男の人らしい手が目から耳からと刺激する、私にとっては1番の授業。

煙草の香りを珈琲で隠す。そんな先生に染み付いた香りは独特なものだ。
近付いただけでふわりと香ったり、すれ違うだけで思わず振り向いてしまう。目が合った際には初恋のようは反応をして、目が泳ぐ。
「柊、悪いが資料を運ぶのを手伝ってくれるか?」
教室に着いて席へと座ろうとした矢先だった。あの低音が私の名前を呼んで、その目を見下げて…。
「は、はい…!」
思わず勢い良く返事をしてしまうと、息を漏らすように、ふ、と先生は笑う。
「いい返事だ」
そう言って私の頭に手を置いて、笑う。
ただ職員室から取りに行くだけだと言うのにこれまでも緊張してしまう。

「これで全部ですか?」
私は要らなかったであろう資料の圧倒的量の少なさに驚く。
「ああ、そのようだ」
「先生、私居なくても大丈夫だったのでは…?」
「いや、必要だ」
すると背中から抱き寄せられ、彼の腕の中に入る。ふわり、と先生の香りに包まれた。しかし、いきなりだったとはいえ、ここは学校の廊下だ。どの生徒にどう見られるかわからない。
「あ、あの…」
「廊下は走るな」
そう言って、先生は私を挟んで向こうを見る。ああ、そうか、と私自身納得して先生から少しずつ離れていった。




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