02もしも新選組を出るとしたら
朝からその人の処分をどうするのか、幹部会議―――羅刹の存在を知る幹部だけの会議―――が開かれた。
これも何かの縁なのか、羅刹を見たのは雪村千鶴という女の子で、雪村綱道の娘ということだ。おそらくみんな、雪村綱道の差し金で、何かしらを探りに来たのだと感じたのだと思う。でも、あの様子からして、本当になにも知らない女の子のようだった。
いろいろとあったが、利用価値があると判断をされ、土方さんの小姓として新選組預かりとすることとなった。もちろん、私とおなじように男装は必須だ。
ということで、屯所の数少ない部屋をつぶすわけにもいかず、私と同じ部屋になった。つまりは、私が男装をしているということも知られているというわけだ。
「まさか、女性の方がいらっしゃるとは思わなかったです、」
『そうでしょう?…もちろん、秘密の話よ?』
「誰にもいいません!」
秘密といえば、反射のように誰にも言いませんという。きっと先ほどの幹部会議がよっぽど怖かったのだろう。そりゃあ、江戸に住んでいた女の子が、いきなり知らない京の町で羅刹に襲われ、そのまま新選組の屯所に連れてこられたら、怖いのも無理はない。とんだ災難だったなあ、と今さらそう感じた。
『まあ、私が女だということは別にあなたの命がかかるほど重要なことじゃあないけどね。せいぜい、私が新選組から除籍されるだけ』
「それって、久我さんがここにいられなくなるということですか?」
『そういうこと。……女で侍になるのは、難しいというかできないからね』
ふと千鶴ちゃんの顔を見ると、なんだか悲しそうな顔をしていた。そして「……なこと、じゃないですか」と独り言のようにつぶやく。
『ん?』
「重要なことじゃないですか。私が、久我さんが女だとばらしてしまったら、ここにいられなくなってしまうんですよね?」
『それはそうだけど。……ここにいられなくなったって、死ぬわけではないし。だからあなたが死ぬこともないよってこと』
それに誰にも話さないって約束したでしょ?と付け加えれば、素直にはいと返ってくる。妹のようでどことなくかわいい。少しだけ、ほんの少しだけ、昔に死に別れた妹を思い出した。
「久我さんは―――」
『なつめでいいよ。みんななつめって呼ぶし』
「……」
『私も千鶴ちゃんって呼ぶし』
「……なつめさん」
だいぶ言いづらそうだったが、なんとか名前で呼んでくれる。正直、苗字で呼ばれることに慣れていない。
「もし、ここを出ることになったら、どちらに行かれるんですか?」
存外、千鶴ちゃんは心を開いてくれているのかもしれない。同じ部屋で何も口を利かないよりはとても良い。
『そういえば、考えたことなかったなあ』
昔住んでいた家を出てから、試衛館に住まわせてもらった。行く当てもなく帰る当てもなかった私には、とても有難いことだった。しかし、当時試衛館にいた人は、ほとんどこの新選組にいる。家族のような関係性と思っていたせいか、性別を偽っても一緒にいることが当たり前のように感じていた。
新撰組ではなかったら、私はどこに行きたいのか。何をしたいのだろう。
「京の方なのですか?」
『生まれは甲斐だよ』
「じゃあ、甲斐へ帰るのでしょうか?」
『どうだろう。甲斐に家族はいないから……』
話が暗くなりそうだったが、ちょうど誰かの足音が近づいてきた。歩き方からして左之さんだろうか。
「なつめ、ちょっといいか?」
案の定左之さんで、何やら話があるとのことだ。土方さんと山南さんが近々大坂へ行くようで、それについての話らしい。千鶴ちゃんとの話も一区切りつけたかったので、丁度よい機だ。千鶴ちゃんへ断って、広間へ向かう。
しかし、話の間中、内容はあまり入ってこず、もし新選組から出ていかなければならなくなった場合について考えていた。
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