断じて行えば鬼神も之を避く | ナノ
29貴方が受け入れてくれるなら、



眠る準備をしていたのだが、腰に刺した刀を外したところで、嫌な感じがした。
そういえば、さっき菊月さんが「接触を図っていることが風間たちに知れたら、すぐに襲ってくるかもしれません」とか言っていたよな、と。

「なつめさん、どうかしましたか?」

刀を持ったまま不自然に動きを止めた私を不思議に思ったようで、千鶴ちゃんがこちらを見上げる。結わっていた髪を解こうとしていたところを、ちょっと待って、と制止する。

『風間たちが来るかもしれない』

しばし耳を澄ませると、図ったかの様に刀の交錯する音が聞こえた。
音の大きさからそんなに遠くない。

「この音、もしかして―――」
『千鶴ちゃん、小太刀を持って』

自分も刀を再度腰に差しながら、襖を開けた。
丁度島田さんが近づいてくる。

『島田さん、千鶴ちゃんをお願いできる? 私、様子を見てくる』

島田さんもそのつもりだったのか、黙って頷く。
しかし、千鶴ちゃんは従えなかったようで、「なつめさん、」と呼び止められた。

「私も行かせてください!」
『危ないよ。……私たちで追い払うから、』
「鬼たちの目的は私です。皆さん方にだけお任せするわけには行きません」
『行ってどうするの?』

少し突き放す言い方になったかもしれない。
斬撃音は少し距離があったが、風間たちの強さを思うと、うかうかしてはいられない。離れたこの場所でも、緊迫した空気を感じる。

「私ならあの人たちを説得できるかもしれません!」

それを意に介した様子もなく、千鶴ちゃんが私の問いに答える。
先ほどまでの悩んでいた様子ではなく、強い意志を感じた。

『……千鶴ちゃんって、案外強情なのね』
「え?」
『わかった。ついてきてもいいけど、島田さんのそばを離れないで』

島田さんがこの部屋へ来たのは、千鶴ちゃんの護衛の為だろうと察しをつけてそう指示すると、二人ともから了承の意を得た。
そうして3人で、境内へと向かった。





建物から境内へと出た途端に、真横から思い切り蹴りを入れられた。
横腹に食い込み、ミシミシと音がする。
いつもは腹部に巻いている縄を、今日は急いでいたため巻いていない。あれは、体を大きく見せる意図もあるが、腹部を斬られた際に、傷を浅くする意図もあった。こういう日に限ってついていない。

後ろに下がりながらなんとか勢いを殺したが、次の一手が島田さんへ向かっていて、そのまま後ろにあった石灯篭に蹴り飛ばされてしまう。

「俺の蹴りを喰らって立っていられるとは。少しはやるようだな」
『千鶴ちゃん、下がって』

言い終わるや否や、風間の猛攻撃が始まる。
右腕だけで持った刀で放つ一太刀なのに、こちらは両手で受け流すのがやっとな重さだ。
じわじわと後ろに追いやられる。

「どうした? そんなものか? このままでは壁についてしまうぞ」
『っ、』

ひと際大きな音がなり、右手に持っていた刀がはじかれた。そのまま遠くへ飛んでいく。

「貴様の力はそんなものか、」

玩具に飽きた子どものように、ため息をつきながら。構えていた刀を解く。
「千鶴を引き渡せ。お前も、歯向かうようなら容赦はしない」

以前、二条城へ攻め入られた際に、「次に会う時までに、身の振り方を考えておくんだな」と言い残して消えた風間。
風間たちへついて行くなら傷つけないし、歯向かうつもりなら容赦せず攻撃して力づくで連れ去る。そう言いたげな好戦的な瞳だ。

『容赦しなくて、結構です』

腰に残る脇差を抜く。風間の口角が上がったのがわかった。
次の瞬間には風間が目前に迫ってきて、ガン、ガンと刀が交錯する。
なんとか斬撃を受け流すが、1太刀、2太刀とじわじわ刀傷を刻まれる。血が吹き出し、傷がふさがり、を繰り返す。

「なつめさん、逃げてっ―――」

後ろで千鶴ちゃんが叫び、同じくして風間の刀が真上にあった。
斬られると思った刹那、思い出されるのはやはり左之さんの声。

―――なつめをみすみす死なせた、自分の不甲斐なさに、腹立たしくなるんだろうよ

そうだ、私は死ねない。左之さんとの約束がある。
それに後ろには千鶴ちゃんがいる。
それならば、私がすべきことは。

刀が振り下ろされる一瞬で、いろんなことを考えて、覚悟を決めた。
大丈夫、左之さんはどんな私でも受け入れると言ってくれた。左之さんが受け入れてくれるなら、他の人が受け入れてくれなくても―――。

力は先日解放した。あれで感覚は取り戻せた―――鬼の力を一気に開放し、その力で風間の刀をよけ、思い切り地面をける。
髪の色も、瞳の色も変わり、鬼特有の角が生えた姿になっているのだろうが、千鶴ちゃんの反応を確認する暇がない。

ガン
大きな音共に、風間の刀が私がいたはずの地面に振り下ろされている。
それを眼下に確認し、今度は逆にこちらが刀を増したへ向けて落下した。

「ふん、」

私の一撃も躱されるが、それは想定内だ。すぐに態勢を整え、攻撃を続ける。
何度か斬り込んだところで、風間も本気を出したようで、姿が変わった。

ギィン、と大きな音がして、ギリギリと力が拮抗した音がしていたが、こちらが精一杯の応戦をしているのに、風間は涼しい顔だ。腕力で言えば、男鬼には敵わない。
交えていた刀をどうにか縁切りするが、間合いを取る際に蹴りを見舞われる。相変わらず一蹴りが重い。

しかしせっかく距離をとった間合いを、すぐに風間が詰めてきて、右わき腹に深く入る。
血が吹き出し、すぐに傷はふさがるのだが、一瞬平衡感覚を失い、その場で片膝をついたところに。

「やめてくださいっ」

予想外の事態で、何が起きたのか理解が追い付かない。
その一瞬で、千鶴ちゃんが私と風間の間に飛び込んできて、彼女の小太刀を構える。それを風間がいともたやすく振り払い、小太刀が手から離れて後ろへ飛んでいく。

「っ、」
『千鶴ちゃん、なんで、』
「あなた方の目的は私なんですよね? もうこれ以上、なつめさんを、皆さんを傷つけないでください!」

私よりも小さな千鶴ちゃんが。決して強いとは言えない、戦慣れしていない千鶴ちゃんが、身を挺して風間に立ちはだかっている。

「どけ、雪村千鶴」
「どきません!」

ため息をつきながら、しかし千鶴ちゃんのことを傷つける気はないようで、刀を持ち変えた―――峰打ちだ。

何にせよ、千鶴ちゃんを傷つけるわけにはいかない。
千鶴ちゃんの手をつかんで、強引に後ろへと引っ張る。峰打ちを避けるために刀を構えるが、それは交錯することなく、風間の刀が―――

「俺の大事な部下に、何してくれてんだよ」

振り下ろされる代わりに、声がした。
風間の刀がはじかれる音もして、目の前には大きな背中があった。左之さんだ。
いや、左之さんだけではなくて、土方さんや新八さんも駆けつけてくれたようだ。

「二人とも下がってろ。事情は後で聞く」

土方さんの指示に、自分が鬼の姿をしていて、それをみんなに知られたことを理解する。
風間から受けた傷はもうふさがっている。
しかしそこに、門の周りの隊士を片付けたとかで、天霧と不知火も加わった。

そして定められたかのように、風間と土方さん、天霧と新八さん、不知火と左之さんが刀を交えた。激しい斬撃の最中、先ほど後ろへ強引に引き抜いた千鶴ちゃんの下へ駆けつける。

『千鶴ちゃん、さっきはごめん』

急を要したといはいえ、強引に引っ張ったから驚いただろうと謝ると、千鶴ちゃんは首を横に振った。

「いえ、こちらこそ助けていただいてありがとうございます」

言いつつ、彼女の視線は私の額を向いていて、鬼の姿が気になるのだろな、と察する。
『この戦いが終わったら、話すよ。私のことも』

しばらく戦闘の行く末を見守っていたが、急に闘いをやめ風間たちの姿が消えた。彼らの引き際はいつも見事だな、と変に感心する。
こちらも鬼化を解き、刀を鞘に戻していたのだが、バタと近くで音がした。振り返ると千鶴ちゃんがその場に座り込んでいる。

『千鶴ちゃん、』

慌てて駆け寄ると、体が小刻みに震えている。無理もない、あの戦闘の中で気丈にふるまったのだがから。刀での戦い方等しらない普通の女の子だ。

『よく頑張ったね。ありがとう』

優しく頭をなでる。
いつも左之さんがするせいか、私も癖になったらしい。

「どうした、怪我したか?」

そこへ左之さんも近づいてくる。

「いえ、大丈夫です。安堵したら急に力が抜けて、」
『歩けそう?』

そう声をかけたところで。
土方さんが千鶴ちゃんを、有無を言わさずに抱え上げた。

「え、ちょっと、土方さん、あの、」
「いいから黙ってろ。お前はもう休め」
「私、歩けます!」

わあ、と二人の姿を後ろから見守る。
先ほどまでの緊迫感はどこへ行ったのか、ニヤニヤとした顔をしていたのは見逃してほしい。





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