断じて行えば鬼神も之を避く | ナノ
19人間だろうと鬼だろうと



二条城の警備の後、千鶴が目を覚ました時に、幹部会議と称して試衛館組の幹部と千鶴となつめが招集された。
内容はもちろん、襲撃してきた風間たちに関することだ。

「身に覚えはねーのか?」

土方さんの問いに、千鶴は黙って首を横に振る。
身に覚えというのは、風間たちが千鶴のことを同族、つまり鬼の一族だと言っていたことについてだ。それと、「鬼」という言葉というか種族についても聞いているのかもしれない。
いろいろと情報はそろっていない。

「で、お前は?」

話を振られたのは、なつめの方で、二条城での風間の言い方は、なつめについて言っているようにもとれるし、言っていないようにも取れた。
しかしなつめも首を横に振るばかりで、そうか、と土方さんも聞いては見たが返事は予想していたような反応だった。

『風間たちが“鬼”だと名乗ることは、どう思うの?』

静かになった幹部の空気の中で、不意になつめが発言する。
風間たちのことを言っているはずなのに、切実な眼差しをしていて。

案外なつめも鬼だったりしてな、とそんなことをふと考え、いやいやそんなはずはないだろう、と考えを改める。

「まあでも、あの強さの理由が人じゃないからってんなら、ちょっと安心するよな、」
「総司や平助がやられたのも納得できる」
「……次やったら勝つっての!」

率直な考えを口に出すと、新八や平助も乗ってくる。
しかしその楽観的な言葉を、本気なのか確かめるように、『鬼の存在は、信じるってこと?』と。
やはり、なんだか様子が変だ。他人事なはずなのに―――風間たちの話をしているはずなのに、どこか自分事のような。

そしてまた、なつめも鬼なのでは?と疑問が浮かぶ。
なつめが過去のことを話したがらないのは、鬼の一族と関係していて、でも急に鬼の存在を話したところで信じてもらえないと思っているのではないか。

そういえば、たまに人間離れしたような戦い方をするし、新選組の中でも上から数えた方が早いくらいに強い。……なつめが鬼だった、と言われても、なんら不思議ではない気がした。

まさか、な。

「お前はどうなんだ? 池田屋、禁門の変、今回と一番接触しているのはお前だろ? どう思ってるんだよ」

なつめに問うと、困った顔でしばらく黙っていたが、
『人間ではないと思う』
と静かに答えた。

その答えで確信に変わる。
なつめは鬼のことを何かしら知っていて、おそらくなつめもその血を引いているのだと。
突拍子がない確信だとはわかってはいたが、妙にしっくりきた。

「まあ、あいつらが人間だろうが人間じゃなかろうが、俺たちには関係ないけどな」

なつめが鬼であるならば。
だから何だというのだろう。鬼の血を引いているから、これからの態度が変わるわけではない。なつめはなつめだ。
そして風間たちは風間たちだ。人間だろうと鬼だろうとあいつらが強いことには変わりはない。

「そうだな、別にあいつらの正体が何だろうと、敵なら斬るしかない」
土方さんも不敵な笑みをたたえる。

『そっか、』
どこか安心したような顔で、誰にも聞こえないような小さな声でそれだけ口にした。
大丈夫だと伝えたくて力強く頭をなでると、なつめはそれを甘んじて受け入れていた。





ズ―――

心臓を一突きにして、ソレがこと切れるのを待つ。
動かなくなったところを、突き刺していた刀を一気に抜く。

ビシャ、とソレの真っ赤な血がそこら中に飛び散る。

失敗した隊士への粛清の作業だが、なんの感情もなく作業としてこなすほどには、何度も行っていた。いや、「何の感情もなく」というよりは、何の感情も抱かないようにあえて作業としていた。

刀の血を噴き上げて、鞘に納めると、山南さんが困ったように入ってきた。

「なかなか上手くいきませんね、」

笑った顔はよく知っている山南さんだったが、やっている内容はあまり褒められたものではない。

『最近、失敗する人、多くない?』
「弱点克服を―――昼間も活動できるように、という克服を試みているのですがね、どうしても配合がうまくいきません」

山南さんが飲んだ薬は、しかし完全な成功体とは言えない。昼間に動くことができないからだ。それを克服するべく、山南さんは薬の改良を試みていた。

『今までみたいに、夜の活動にすれば―――』
「いいえ。……話によると、”鬼”と呼ばれる方々が現れたとか? ……今のままでは太刀打ちができない、」

それに、彼らは自分で選んで変若水を飲んでいるのですよ。
冷たく言い放たれた言葉に、もう以前のような山南さんではないのかな、と少し悲しくなった。

『……鬼が現れたからって、私は変若水の研究を続けることには反対です』
「あなたがそんなに強い意志を持つのは、珍しいですね」

それには答えず、部屋の外に出る。
そこには、難しい顔をした土方さんが立っている。

『いつまで、こんなこと続けるの?』
「……ああ」

私が言わんとしていることはわかっている、と言いたげな短い返事。
土方さんだって、変若水の研究にはあまり前向きではないことは知っていた。でも、それでも言わずにはいられない。そして土方さんは、そんな私の発言を容認してくれている。

あれから―――以前左之さんと話をして、「そいつが他に罪を犯さないように、最後のけじめをつけてやらないといけないだろ」と聞いてから―――、羅刹を粛清するのは私の役目なのだと考えていた。

鬼の血を引く者として、鬼になりきれなかった人たちに、私が唯一してあげられること。
だから今日も、土方さんが粛清をすると言っていたのだが、私がやると言い張った。

『……幕府は、羅刹で何をさせたいんだろうね』
「尊攘派が過激になってるからなあ。……俺たちだけの力じゃ、こころもとないんだろ、」

ため息をつく土方さんに、しかし何も返すことはできない。
人間は愚かだ、と。昔誰かから聞いた気がする。だから人間には関わってはいけない。加担してはいけない。と。

「血、流してから帰れよ」

その場を立ち去ろうとする私に、土方さんはそれだけ告げた。






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