純粋な愛だった?※



あつくて、きもちがよくて、溶けそうだ。

「ん、あっ…」
「っ、は…〈  〉」

熱と熱が合わさって、重なってまた離れて、一つになって。燃えそうな情熱に身体を委ねる。愛しい人の頬に必死に手を伸ばせば、その人は頬を緩めて笑った。あァ、愛しいな。

「〈  〉愛してる」

都合の悪い言葉は聴こえない振りをする。快楽に溺れた身体も熱に浮かされた愛しい人の瞳にうつる溶けた表情もあの女のモノだけど、この情熱はアタシのモノだ。何故、名前も覚えられていない ただのメイドがこの人と身体を重ねているのか、


あの婚約者の姿に化けた。

あの人の首に腕を回して、あまく誘惑した。

後はもう、なだれるように二人、ベットで身体を求め合う。


恋愛も情交も全てアタシにとっては邪魔なもので、世の中の乙女達が色めき立つようなふわふわとした夢物語りが大嫌いだった。仕事の為なら自身の身体だって使うし全く違う人に成り代わる事だって厭わない。それが自分が生きる為に必要な事だとわかっていたし、生娘のように恥ずかしがる年齢でもないのだ。なのに__

ひとめ見て、この人だと思った。

この人がアタシの運命だと感じた。

その衝撃と衝動が、アタシは手に取るように誰のものだかわかっていた。アタシが演じるべき彼女じゃない、アタシの、このエーリカの情熱だと。

愛しい女の皮を被った、醜い女を違えて抱いたことを知ったら、この人は死んでしまうだろう。この人の恋はまるで神に祈るようなものだったから。だが、この人がそれで死んでしまうのも悪くないかもしれない。綺麗で愛しいこの人の愛を汚して殺すなんて、なんて素敵なことだろう。

果てた身体を寄せて、力強く抱きしめられた。うねるシーツと掛け時計の針が指す数字を見て夢の終わりを思い出す。さぁ、どうやってネタばらしをしようか。

歪んだ口元を隠すように顔を胸に寄せるとぎゅっと抱きしめられる。今から絶望に落とそうとする歪んだ女の思考に気がつかずに腕に抱いて、莫迦な男だ。なのに、この世に安全な場所はここしかないとでもいうように、

「きみが好きだよ」

そんな欲も感じない無垢な顔で笑うから。ただ愛しいという気持ちを諦められなくなる。

ゆっくりと頬を流れる涙に慌てて触れるジンジャー様の瞳にうつるのは、どうしようもなくあの女の顔なのだ。




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