秘めやかな恋だった (テムズ)


どこが好きかと問われたら、どこだと答えようか。気がついたら傍にいて、放っておけなくて、目が離せなくて。ピンと伸びた背筋が好ましかった。一生懸命な姿に惹かれた。機嫌が直ぐに瞳に出るのも面白かった。意外と素行が悪くて、口調が乱暴だと知り、その事実を知っているのが自分だけだということが愉快だった。

叶わぬ恋をそっと愛でようとする姿も、未知の恋情に震える姿も、全てが自分には愛おしくうつったのだ。激しい恋ではなかったけれど、確かに俺はミモザという女性に恋をしていた。

彼女にしあわせになって欲しかった。それが自身のエゴだと理解していながら、初恋に胸をときめかせるようなその姿に絆されない訳がなかった。

しかし、

想い人の姿を見る度にそっと目を輝かせる彼女の姿に、彼女に伝えるべき事が、伝えなければならない事実が喉に張り付いて、結局喉は声にならない呼吸だけを繰り返した。いっそ、早く想いを伝えて諦めてくれればいい。血や掟は想像よりも重くて太刀打ち出来ないものだから、想いが燻る前に激しく燃えてしまった方がいい。絶対的な絶望よりも、想いが実らなかったその恋を抱いて悲しみに暮れた方がきっと彼女のためになる。

期限はもうそこまで迫っている。早く伝えなければならなかった。待ち人が帰ってくる。誰も到底かなわないあの人の太陽が。はやく、伝えなければならない、


彼女の恋が叶うことは絶対にありえないのだと。


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