朽ちるだけの恋だった (ミモザ)



雇い主が気まぐれに姿を現した。その姿をみて跳ねる心臓を必死に抑えつける。短く揃えられた髪も、黒い沼のような瞳すら愛おしい。あァ、いけない。

「おはよう御座います、ジンジャー様」
「、あぁ」

冷たくて低い声が鼓膜を揺らして、体の中心がきゅんとする。さっきからときめいてばかりで自分が気持ち悪い。すっと逸らされた視線に、横顔を名残惜しく見つめていると、ジンジャー様の雰囲気が分かりやすく変化したのを見止めてしまった。

「やぁ、メル」

その輝かんばかりの顔と、瞳と、甘ったるい声を聞くのはもう何回目になっただろう。

初々しい男女のやりとりをそっと見守りながら、今も腐敗してゆく想いを感じた。頭でいやらしい女が耳打ちをするように誘うように嘯いた。

「素直に生きればいい」
「盗られちまった」
「お莫迦な子だね」

仕方が無いじゃないか。だって、この人間はそうやって生きられない。真面目だけど女性らしさもある涼やかな女性。まっすぐで綺麗な、そういう人間を選んだのだから。

「おばかな子」

「私」と正反対の性質の女が呆れたように笑っている。裏腹に目の前では華々しい二人が恋を紡いでいた。

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あの衝撃と、衝動を恋だと言うのなら、私は確かに恋をした。叶わないと知りながら高鳴る胸も高揚する気持ちも清らかで尊いものだろう。諦め切れずに絶望に揺れる腐敗した泥も正しく恋なのだろう。今ならわかる、この衝撃は衝動は、この恋は____



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テーマ「人外ファンタジー」
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