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 もうすぐ会える、なんて考えたらいてもたってもいられなくて、結局ここまで迎えに来てしまった。そういう乙女心はいつまでも消えることはないだろうと思う。真っ白なシャツワンピに身を包んでデニムジャケットを羽織ったわたしは、今か今かと駅で立ち尽くしている。何度か見知らぬおじさんやお兄さんに話しかけられたけど、微塵も興味がなくてひたすら無視を決め込んでいたら、その内に諦めて離れて行った。

「まだ、かな」

 そわそわすること十分。到着すると言っていた時間は過ぎていて、近くの鏡で自分の姿を確認しながら忙しなく宮君の姿を探す。

「カーノジョ」

 そうして聞こえて来た声にわたしはぱっと振り向いた。おちゃらけてはいるが、既に耳には馴染んでしまった響きだ。有名なロゴの入ったTシャツに、ざっくりとした薄手のニットカーディガン。なんのつもりか色付きサングラスなんかかけてるし。その姿にちょっと笑ってしまう。

「ふふ、なに?」
「なんや、驚かへんとかおもろないわぁ…久しぶりやな李沙」
「宮君の声だよ? わたしが間違えると思う?」
「おお、熱烈な告白おおきに」
「宮君、久しぶり」
「アホ。さっき俺が言うたわ」

 頭をぐしゃりと乱暴に撫でてた手は当たり前のようにわたしの右手へ。久しぶりの宮君の熱だ。嬉しい。嬉しくてどんどん頬っぺたがとろとろ緩んでいくのが止められない。きゅっと握り返したら、するすると指を撫でられた。

「…ちょっと、宮君。手がやらしい」
「別に嫌いじゃないやろ?」
「…」
「可愛エエなぁ…まあ、そんな顔せんでも後でたくさんヤラシイことできるんやから……とりあえず先に飯食べてええ?」
「…うん」
「…ッブフォ! リンゴか!! 赤ッ!!」
「ちょっと!!」

 ひっどいな久しぶりに会ったって言うのに!! しかもそんなこと言われたら反応もこうなるの分かってた癖に!! でも、お腹を抱えて笑う宮君を見て、わたしはやはり幸せだと思った。バレーのことになると妥協なんて絶対許さない、そして同等の自信。でも、普段の宮君は揶揄い上手で、実はよく笑う人。全部、全部好きだ。

「あー、ホンマ飽きひんわ〜。慣れへんな〜。まあ慣れられてもオモロないけどな〜」
「相変わらず宮君は酷いよね」
「なんや、そんな酷い奴好きなったんは誰やったっけなァ〜?」
「……私」
「せやろ?」

 ニッと笑った宮君の顔が突然近付いて、気付いた時にはもう離れていた。一瞬だけ触れた唇はほんの少しだけ熱を帯びていたが、物足りないと小さく震えている。そんなに普通な感じで奪われても納得しない。もっと欲しいし、もっと欲しがってほしい。

「宮君、」
「ダーメ。飯が先や。それに、美味しい物は最後に食べる言うやろ?」
「…摘み食いした癖に」
「俺悪い奴やからなあ」

 ほんとだよ。悪い男め。そんな悪い男に捕まえられているわたしだが、ちっとも後悔なんてしていない。それどころか、もっとこの悪い男だ≠ニ言う宮君にたくさん愛されていたいのだ。どうしようもなく、好き。渾身の力で握り締めた掌は、それ以上の力で握られる。

「痛いよ、もう」

 でも、その痛みさえも、笑ってしまえるくらいに愛おしいのだ。

2017.04.29