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「…ファミレスですか」

 予定通りというか、夜、時間を合わせて黒尾先輩、夜久先輩、そして海先輩の四人でご飯を食べにきていた。部活も終わったことだしと、三人はモリモリ食べる気があるらしい。席についた男達と言えば、あーだこーだと言いながら、一品、二品とメニューを増やしている。いやまあわたしもお腹減ってるから、たくさん食べますけれども。

「李沙ちゃんは何にすんの?」
「オムハヤシ、に、パンケーキ食べたいです…」
「? なに、どうかした?」
「いやいやなんもないです!」

 夜久先輩にきょろりとした大きな目を向けられて、つい慌ててしまった。黒尾先輩、なんでもないみたいにしてるけど、なんでもなくないからね。わたしがもう怒ってないとでも思ってる? そんなわけないんだから。横からじーっと見つめてくるような視線を感じてはいるけど絶対に見てやんない。そうやっているのが多分、夜久先輩や海先輩から見ると変だったのかもしれない。二人して目を合わせて首を傾げている。

 特に突っ込まれるわけもなく、ファミレスでの夜ご飯会は時間が流れていった。わたしは今部活に参加できない身なので、男バレの話しばかりだ。聞いているだけではあるが、女子と違って熱量も豊富なので、聞いていてとても楽しい。もちろん三人もわいわい笑っていたり怒っていたり、やり甲斐がありそうで、だからこそ逆に心の中がすうっと冷ややかになってしまう。
 ここにはわたしの好きだったバレーも、人もいない。今更そんなことを考えたって仕方ないのに、どうしても頭の中から引っ張り出して、ゴミ箱に捨て去ることができないのだ。

「ってかオムハヤシ美味そう」
「夜久先輩も食べます?」
「大丈夫! チゲと肉で結構腹膨れたから」
「海先輩は?」
「気にしないで食べなよ。気持ちだけ受け取っておくね」
「えー残念」
「待て待て、次は黒尾先輩って言うところでは?」
「黒尾先輩にはあげません」

 分かりやすくお皿を遠ざければ、ケチかってわざとらしい声が聞こえた。ちっとも目を合わせようとしないわたしと、少しそわそわと落ち着かない黒尾先輩。そんなわたし達の様子がいつもと少し違うのがわかってしまったのか、目の前で咀嚼を繰り返していた先輩二人の口が止まった。

「え、なに、やっぱお前らなんかあった?」
「「え、なにも」」

 げ、見事にハモってしまった。先輩の低い声とわたしのソプラノとアルトの中間みたいな音域が混じって、今度は二人で顔を見合わせてしまう。なにも「ないですよね?」という言葉は言えなくて、そのまま温くなってしまったチキンライスを運ぶことしができなかった。黒尾先輩は、どういうつもりであんなことを言ったのか。

 本当にわたしを助ける為だけの言葉だった?

 だとしたら紳士にも程がある。「もしかして気がある?」って勘違いされてもおかしくはない。でも、黒尾先輩ってそういう優しいところが一々見えるから、突き放してみようかと思っても突き放せないし、人として大好きだから、それができない。

 頼んでいたものを全て平らげて、「変な奴ら」って視線を送ることをやめてくれない二人を掻い潜る。黒尾先輩も同じく、ひょいひょいと上手く逃げ躱していた。

のろのろとした足取りでもやもや考えていた矢先、ファミレスを出た所でぐんと体がぴたりと止まった。制服の袖を引っ張られているらしい。黒尾先輩に。

「夜っ久ん、海、先帰ってて。こいつ送ってくから」
「黒尾逆じゃん。俺送ってくけど」
「今日は回り道したい気分なんですよボク」
「あ? ボクってなんだ寝言は寝て言え」
「酷くね?」
「まあ、じゃあそう言うなら黒尾に任せるよ」

 え、ちょっと待った。任せられても困る。困る!

 ぱかっと口を開いたまま、そして閉じることも叶わず、だけどわたしのこんな様子を見ても目の前の2人は「じゃあ帰るか」という。そんな薄情な人達ではなかったはずだ! と思っていても、声に出さないと意味は為さない。縋るような目に気付いていそうな海さんも、にこやかに手を振るだけだ。…ちょっと関わるの面倒臭そうだ、とか思ってるな?

「黒尾さん、わたし一人で帰れます」
「一人でなんて帰らせませんけど?」
「いいですってば!」
「嫌なの。俺が。…分かってくださいよ」

 分かんないって。分かりたくもないし、ぶっちゃけ知りたくもない。そんな訳ないのに、黒尾先輩がわたしのことを好きなんじゃないかって、ふと考えたらどんどんそうやって感じて、どくどくと心臓が早鐘を打つ。

 わたしが宮君が好きだって、そんなこと変わらないことだし、先輩だってそれを分かっている筈でしょう?

 「ん、」と差し出された手は何を意味するのか。鞄を持つ? それとも、繋げ? どっちもさせてあげない。だけど、そんなに哀しそうな優しい顔を向けられたら、どうしてか酷く罪悪感に苛まされた。

2019.05.12