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「今日怜奈衣装の感じ違くね?」
「え? そう? いちおスタイリストさんと話し合って選んだんだけど」

 ライブ当日のとあるご飯屋さん。頼んだ生姜焼き定食のご飯を掻き込んでいると、我らがボーカリストが豚骨ラーメンをすすりながら首を傾げていた。確かにいつもは黒スキニーにバンドTだが、本日は青のショートデニムパンツにバンドTだ。…っていやいや、ボトムが違うだけじゃん!

「意外と脚が綺麗だからビビるよなあ…お前も一応女だったんだな」
「失礼だわ!」
「でもほんと珍しいね。脚出してんの」
「たまには出さないと死ぬだろ」
「なんなの! わたしを光合成する森林の一部だとでも思ってんの!?」
「なにそれウケる」

 バンドを結成したのは三年前だ。最初はサポートで入ったが、三人の熱意に負けて正式メンバーに格上げになった。わたし一人だけ女だったが、それは別に気にすることではない。特にメンバー内で恋愛に発展することはまず無く、それはまあどうでもいいことなのだが、最近のバンド内での女扱いの無さはヤバイ。そのうち着替えの楽屋まで同じにされそうな気がするのだ。それはそれで不味い。それをこっそりスタイリストに伝えただけなのに、そしたらこの格好が選択されたのだ。…別に嫌じゃないからいいけど。

「んだよ、とうとう浮ついた話でも出来たのかと思って祝杯でもあげるべきか悩んでたのに」
「つか怜奈の好きな人とか想像つかないよね」
「言えてんな。お前どんな奴が好きなんだよ」

 どこまでも失礼な三人にぴきりとこめかみが疼く。なんなんだ君らは。そうしてふん、と腕を組んでふと考えてみた。どんな奴が好き、とか。そういうの、いたことないから分かんないんだよなあ……尊敬するというか、そういう人ならアカネさんか、とぼんやり思い出していると、突如割って入ってきた画像に目が丸くなる。眼鏡の金髪頭。…いやいや彼は高校生。論外だ。

「…」

 確かに蛍は身長が高くて、結構良い顔してて、言うなればやっぱりイケメンってやつ。モデル並みの長身イケメンというイメージはやはり崩れてないということか。歳上に対して口は良くない気がするけど、別に嫌いじゃないんだよなあ。だがしかしこれが恋か? って言われると首を傾げてしまうのだ。恋というよりは突然イケメンの弟が出来た気持ち。やっぱりそれがしっくりくる。

「…そんなに考え込むってことは案外当たりだったりして」
「えっ! 誰だよ、教えろよ〜! ファンの奴とかやめなよ、ほんとそれだけはやめな」
「なんでガチトーンなのよ! いないっての!」
「つかさ、初恋まだとかヤバくね? 怜奈」
「ぐっ‥!」

 痛いところを突かれすぎてお肉が詰まる。ヤバくね? とか言うな! ムカついたから残っていたおかずに箸を伸ばし、ヒレ肉梅しそ巻きを奪ってやった。そんな、人それぞれなんだからヤバイとかヤバくないとかないでしょ! ないんだから!! わたしも明日か明後日くらいには胸がキュンキュンときめくような出逢いがあるかもしれないんだからな!!

「あ」

 僅かなバイブレーションに気付いて、iPhoneをポケットから取り出した。誰だよ、という声を無視してラインの確認をすると、お疲れ様です。すみません、部活なので間に合いません≠ニいう蛍からの通知が入っていた。ちぇっ、行けないかもとは聞いていたけどやっぱりそうかってぷくりと頬を膨らます。そうして、いいよ気にすんなっていう意味のスタンプを送信しようとしたら、またもう一つ、通知が入ってきた。

…なんですけど、終わって時間あるんだったらご飯は付き合えますけど

「……っぶは! なんでやねん!」
「うおっ、急にどした…!?」
「あ、…ごめん、ふふ、なんでもない」

 なんで上から目線なんだ。突然関西弁になってしまったじゃないか。への字に口を曲げた蛍の顔が思い浮かんで思わず笑ってしまう。どんな心境でこんなライン送ってきたんだこいつって、おかしくて。

「やっぱ怜奈、なんか変なの食った…?」
「「さあ…」」

しょうがないな〜!

 一言だけ文を打って、ムカつくうさぎのラインスタンプを送ってやった。ライブまであと三時間。先程と心の持ちはだいぶ違っているような気がする。連絡を終えてiPhoneを仕舞うと、三人のメンバーは顔を見合わせて一瞬固まった。そのすぐ後に突然ぶふっと噴き出している。…え、なんで?

2017.11.02