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 最近よく怜奈さんと連絡を取ることが多い。いや、取る、というよりは一方的に連絡が来るので適度に毎回返しているという言い方が一番無難である。返信していないメールも掛け直していない電話もあるけれど、この人は無視できないのだ。…なんとなく。
 理由は不服ながら理解しているけど、まさか僕が歳上の人気バンドマンに恋をしているかもしれない、なんて(僕も信じたくない)。それをボールを常に追っかけ回している奴らに知られてしまった時の想像……は、したくない。

「今日も潔子さんは美しいのだろうな…」
「そうだな…もう四ヶ月と十一日会っていない…これがロスというやつか…」

 西谷さんの言葉に、毎度のことながら田中さんも大きく頷いている。そのやり取りも既に全員が聞き飽きていた。もちろん分からなくもないのだ。美人に分類されるであろう男子バレー部のOGマネージャーに関しては結構僕も噂を聞く。…だけどやはり、好みというのは人それぞれあるのであって、信じたくも認めたくもないけど、あの天真爛漫な笑顔を浮かべた怜奈さんの顔を簡単に忘れられないのだ。

「ツッキー帰ろ!」
「山口は今日練習行かないの」
「嶋田さん今日は仕事なんだって。もしかしてツッキー用事ある?」
「ないけど」

 けど。そんな語尾が続いてしまったのは、帰り際でも怜奈さんとメールや電話をすることが増えたからだ。一人だと周りを気にせずに出来るメールも電話も、誰かがいれば気にしてしまう。我儘を言えば一人で帰りたい所だが、まさかそう言う訳にもいかないので通学用鞄とヘッドホンを手に取った。

「月島君、今度の試合の資料持って行ってね」
「谷地さん。ありがとう」
「…ツッキー」
「何」
「最近なんかあった?」
「は?」
「ここんとこずっと機嫌良さそう」
「月島に機嫌良い時とかあんのか?」

 山口の言葉に一瞬だけ詰まると、割って入ってきた王様の声に大きく息を吐いた。…僕が? 機嫌が良い? そんな僕の心の声が届いたのか、苦笑いをして「だってさあ」と続ける口を鞄で叩く。ぎゃあぎゃあと煩い体育館はいつも通り。いつも通りじゃない奴なんていない。…僕だってここではいつも通りの筈なんだ。


―――


『蛍、もう部活終わったー? …って、あ、わたしは休憩時間休憩時間! 大丈夫だから!』

 結局山口は王様や日向に捕まっていて、待つのも面倒だから先に帰っている所だった。ブルブルと震えるiPhoneを手に取ると、いつの間にか僕を名前で呼びすてにする声が電話越しに響く。ギターやベースの音が奥から聞こえてくるのが分かって、通話終了ボタンを押しかけた。なんでボタン押そうとしてるの知ってたように止めるのか。怖すぎでしょこの人。

「休憩時間って随分遅くまで仕事するんですネ。肌ぼろぼろになりますよ」
『なりませーーん好きなことやってると綺麗になるんでーーす。そういえばさあ、来月Sのライブあるんだけど良かったら来ない? チケット二枚招待分貰ったんだ〜』
「…親でも誘えばいいんじゃないですか」
『いやー、Sは結構激しい曲多いからさあ。うちの親そこそこ歳だし大きい音苦手なんだよね。友達も同業者ばっかだし…まあ? 蛍に来てもらえるとわたしもテンション上がるかなーって』
「…」
『蛍は結構音楽好きでしょ? だから…ぇ、あ、ちょっと待ってすぐ準備するーー!!!』

 結構? そんなことない。割と好きなんですけど。ハイ、と伝えた声は恐らく彼女に聞こえていなくて、その代わりに他の人に呼ばれて彼女が返事をした声が僕の耳に届いた。そうして勝手にかかってきた電話はまた連絡するね!≠ニ勝手に切られ、寂しげにツーツーと通話が終了した音だけが続く。…ほんと、なんて身勝手な人なんだと思う。ライブとかいつあるんだよ。僕部活してるって言ってるじゃん。ライブの為に部活休むなんて選択肢あると思ってんの?

「はあ…」

 無意識に動く指は、わざわざネットでサイトを開いて次のライブを検索している。来月は五回、のうち一回だけが宮城で行われるみたいだから多分このことだろう。てんほら、土曜日とか。部活普通にあるじゃんか。

 ご飯を食べに行くだけでもいい。会えるだけでもいい。そんな感覚は知らない。それでも僕は少しだけ残念で、部活終わってからだったら行ってみようかと面倒臭いを強調している脳内で考えているのだ。

2017.09.01