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「‥‥」

 僕、何やってるんだ。

 別にさっきもお礼は言ったんだし、それで終わればいいことなのに、他にケーキの美味しいお店知ってますよ、なんて発言をするからこんなことになったんだ。馬鹿だろ。馬鹿だ馬鹿。

 ショートケーキが好きという好みのかぶり。お喋りに夢中になる人も別に嫌いじゃない。よく食べる顔を見るのも嫌いじゃない。華が咲いたような突然の笑顔は正直言うと堪らない。全部グッときた。これが一目惚れなんだろうとは思う。けど考えてもみろ。年上、しかも芸能界に片足を踏み入れている言わば芸能人。いやミュージシャンか。そんな人がこんなド平凡な男子高校生なんか相手にするはず無いだろ。全く以って馬鹿らしい話しだ。

月島君のオススメ楽しみにしてるから!!

 なのに、この人ときたら。僕があんまり喋りもしない年下だということを知ってか知らずか、安心してメールを送ってくる始末である。初恋がこの人だなんて、これから先彼女なんて作れないんじゃないだろうかと、ずっとiPhoneとにらめっこをしている。ああ、最悪の一日だ。


―――


「ツッキー、二組の吉田さんって人が呼んでるんだけど知り合い?」
「?」
「あ、あの…月島君、ちょっといい…?」
「…ああ、今音楽聞いてるから。ごめん」

 そう言うと吉田さんという女の子はびしりと固まったまま数秒動かなかったが、僕が動く気がないと悟った彼女は渋々と扉から離れていった。いや、なんとなく予想はつくから間接的に断っただけだ。それで気付いてもらえるだけでも充分有難い。

 この間の怜奈さんの一件で、特に気になってもいなかったS≠フ1stアルバムをレンタルショップで借りてくるという、我ながら信じられないことをしている。そうしてドラムの音を聞いてみても、やっぱりあんな細っこい人がこれを叩いてるなんて映像は見たことがあってもイマイチ想像ができなかった。そうしてジャンルこそ違えど、なんだか例のスムースジャズのバンドのドラムとどことなく何かが似通っているような気がした。間の取り方とか、…いや、別に僕自身音楽に精通しているワケじゃないからどう言っていいか分からないけど。

「ツッキー相変わらずモテモテだな〜。あれ? それ今話題の! 俺でも知ってるバンド!」
「うるさい山口」
「ごめんツッキー。でも珍しいね。最近インストばっかじゃなかったっけ」
「そういう気分の時もあるでしょ。てかなんでそんな細かいとこまで見てんの。いくら山口でも怖いんだけど」
「ツッキーのことならなんでも知ってるよ!」
「ちょっと黙ってくれる」

 一学年上がっても、山口はなんら変わらず。というか、山口に限らず馬鹿二人も変わることはない。好きじゃないけど、別に嫌いでもない。たまにウザいのはウザい。

「ツッキーは彼女とか作らないの?」
「興味ない」
「そっか」

 こういう時に、深く探ってこない山口は本当に気楽でいい。たまに悪ノリをすることもあるけど、それは僕が悪ノリをした時くらいだ。ヘッドホンを外してペットボトルを手に取ると、ポケットの中で震えたiPhone。授業開始二分前にメールを送ってくるとなんてどこの誰だ。場合によって王様か日向だったら放課後にボールぶつけてやる。

やっほー月島君元気か!

「ブッフ」
「ツッキー?!」

 この人なんだよ暇な訳!? 驚いた拍子に口から吹き出た水が床を濡らした。最悪だ。…最高に最悪だ。ポケットティッシュを取り出して、片手で濡れた机を拭く。そうして画面をスクロールさせてみるが、それ以上の文書はない。暇なんだな。この人。当分無視させてもらうことにして後ろを振り向くと、山口がiPhoneを覗き込んでいた。

「…は? ちょっと山口何やってんの? はっ倒されたいわけ?」
「いや偶々!? 本当に偶々なんだけどさ!? あぁあ、えっと……女の子?」

 ナチュラルに名前まで確認してんのか。呆れすぎて溜息が出たが、一番溜息を聞かせたい相手は怜奈さんだったりする。とりあえずボールは山口にぶつけることにした。

2017.05.11