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『すみません先程のiPhone女ですけど! 今どこですか!?』

 また電話がかかってきたので出てみれば、先程の女性の声がした。だから、もうiPhone受け取るって分かってるんだしそんなに慌てなくていいんじゃないの? っていうかiPhone女って自分で言うんだ。軽く呆れていると、近くで同じ声が聞こえてきて辺りを見回してみる。ジャージを身に纏っている人が多い中、花柄のカーディガンを着た女性がこちらに来ているのが分かった。

「あ、眼鏡の君がそう!?」
「iPhoneですよね。どうぞ」
「ちょっと場所変えていい!?」
「は?」

 いや開口一番にそれってなんなの? 僕一応用事がある身なんだけど。深く帽子を被ったその人は、慌てて僕の掌をガシッと掴むなりダッシュで走り出した。なんなんだよ!! そう言おうと思ったが、その人は驚く程に足が遅かった。遅すぎて本当に焦ってるのかと思う程に。

「あーん、いなくなっちゃったあ…」
「怜奈のサイン欲しかったのになー。まだどっか居ねえかなー」
「…?」

 曲がり角に差し掛かった所で人集りの声がした。振り向こうとしたけど、彼女があまりにも慌てているものだったから溜息を吐いて掌を握り返す。多分、僕が前を走った方が速いだろうし、面倒だけどさらなる小言に巻き込まれるのはごめんだ。

「ちょっと待っ…はや、速い速いって〜!!」
「なんか知んないけど追われてるんでしょ! だったらもっと走ってよね!」
「む、無理無理…! 私の運動能力の低さ分かってないからそんなこと…!!」
「煩いなもう! だったらiPhone渡すから一人でさっさと帰れば!」
「それはほんとやめてごめん!!」

 なんなんだこの人は本当に。こっちは全ての被害者だっていうのに、一応助けてあげてるっていうのに。…てか、めっちゃ走ってるんだけど、一体どこまで行ったらいいんだろうか。


―――


「ほんと、ごめ、さい!!」

 いや言えてないんだけど。

 息の整ってない口から出て来た言葉に大きく溜息を吐いた。適当に走った先に見つけた狭い裏路地に入って、二人して腰を下ろす。身長は僕より低いけど、女の人からしたら彼女は少し高いだろう。まあそれは、高めのヒールを履いているからかもしれないけど。顔はまだ見えない。というか、見せてくれない、と言った方が正しいのだろうか。別にいいけどさ、なんか凄く失礼な奴だなと思ってしまう。

「いいですけど。iPhoneどうぞ」
「助かった…! ほんと、遅刻しそうになって慌ててバスに乗ったら、バスにファンが、しかもすごく煩くされて慌てて降りたら、iPhone忘れてくるし…!」
「はあ……じゃあ僕用事あるので」
「あー待って待って! ケーキ好き!!?」
「…ケーキ?」
「そう! わたしショートケーキすっごい好きなんだけどいいとこ知ってて! あの……良ければ奢りますので…ほんと迷惑かけてごめんなさい…」

 ケーキという言葉に口を閉じていると、申し訳なさそうにするりと彼女が帽子を外した所で驚いた。テレビで最近よく見るし、確か兄ちゃんが見てるドラマの主題歌のバンドの人じゃなかっただろうか。人気ロックバンドのS≠ニいう、…確か、ドラム叩いていた女の人。ああ、だからサインとか聞こえたのか。

「……あの」
「そこのショートケーキすっごい美味しくってさあ! あ、ショートケーキ好き!?」
「っ、」

 人の話聞かない奴だな。なんで僕の周りってそういう人間が多いんだろう。そう思いながらも、馬鹿野郎と思われてしまうのは承知の上で感じてしまったことが一つある。

「…まあ、……好きですけど…」

 この人の笑顔に思わず心臓を持っていかれそうになってしまった。素敵な笑顔だとか、そんなキモい発言なんて絶対したくないのに。慌てて顔を隠してしまったんだけど、彼女から変に思われてないだろうか。

2017.04.06