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「部活大変そうだね」
「そうですかね…いつものことなんで」

 まるで部活後とは思えない程にクールな出で立ちだが、ほんのりとだけ汗の匂いがする。バレーボールやってるんだなあ、ちゃんと。こんな「やる気? すみません、どこかに落としました〜」みたいなことでも言い出しそうな蛍が、ボール追っかけてるとか今だに想像できない。
 ふと視線に入れた、彼のゆらゆら動いている腕の先の、指。長くて白くて綺麗だけど、さすがスポーツマンと言うべきなのか、小さく膨らんだ豆とか、中指の絆創膏とか、そういうのが見えてちょっとドキッとしてしまう。ああ、蛍って隠れた闘志持ってる奴なんだなあって。

「ちょっとなんですかじっと見て」
「えあ! ごめん、いや、ほら指がさ、」
「指?」
「よく見たら傷だらけだから」
「ああ、これですか」
「痛くない?」
「その瞬間は痛いですけど、後から痛んでくるような傷ではないです」
「そっか」

 わたしのペースに合わせてゆっくり歩いてくれる蛍は、今だにわたしの首元にヘッドホンを残したままだ。流れてくる音楽が別の物に切り替わった時にやっと息を吐くことができた。…だって自分の作ったラブソング聞いて上手く息なんてできないんだもん。しかもそれが、蛍のことを思い浮かべていたー…だなんて、絶対に言えない。わたしそんな女みたいなことする奴だったっけ? って疑問になっちゃう。
 でも今考えれば、きっとわたしはもうあの頃から、

「怜奈さん、ちょっと公園寄りません?」
「公園? いいけど、どうしたの?」
「今日を逃したら当分会えなくなる気がするんで」
「…そ、そういうこと言う…?」
「嫌だったら帰ってもいいですけど」
「、んない…」
「なんですか?」
「かえ、らないけど」
「じゃあいいじゃないですか、……僕はもうちょっと一緒にいたいです」

 あんまりそういうこと言うキャラじゃないのに言わせんなよ、とばかりに引っ張られた右手。そのまま古ぼけたベンチまで連れていかれて、はいどうぞって流された隣に蛍が座り込んだ。うわ、放り投げ出された足が無駄に長い。羨ましいなあ。わたしも半分分けてほしいなあ。そんなことを半分考えていて、そのもう半分は今だに離されていない右手の存在だ。皮が少し厚くなっているのか、指の腹が少しだけざらりとするのが気になって気になってしょうがなかった。

「さっきの曲。なんか心境の変化でもあったんですか?」
「はいっ?」
「すれ違う二人の曲≠ネんですよね」
「うげっ! なんで知ってんの!?」
「いや貴女自分でテレビで言ってたじゃないですか…」

 いや言ったけど、言ったけど! まさかピンポイントでその番組見てるなんて思わないから!

 慌てて右手を振り解こうとしたら、強い力で掴まれたまま離されることはなく、むしろじりじりと詰め寄ってくるような雰囲気さえある。そういうことしないで、急には対応できかねます。わたしは帽子のつばを下げて、瞳を隠しながら少しずつ蛍の距離を取る。慣れてないんだよ、なんていうか、駆け引き? みたいなの。
 単純だから、バカだから、テンパったら全部口から飛び出てしまいそうなんだもん。「好きなんだよ」って。

 心を落ち着かせないと本当に爆発する。いや暴発する。ある程度の覚悟はしてきたつもりだったけど、やはり想像と現実は違うのだ。

「心境の変化っていうか…なんだろ…ほら、今まで恋とか無縁だったからちょっと書いてみよっかなって」
「どことなく歌詞が僕と怜奈さんみたいだなって思ったのって僕の自惚れですか?」
「え」
「それが当たりだったら、…嬉しいんですけど」

 わたしの人差し指の爪をなぞって、指と指の間に蛍の指が入ってきた。ドキドキさせる天才なのかこいつはって言いたいくらい、ゆっくりと、侵食してくるみたいに絡まってくる。
 蛍は、大体のことを気付いてやっているんだと思う。こっちが好意を寄せていることも、だけどそれを伝えるか否かを迷っているんだろうということも、全部。見た目通り、きっと彼は頭の回転だって速いと思うから、わたしの考えてることなんてお見通しなのかもしれない。…歳下の癖に、悔しい。

「…嬉しいんだ」
「まあ、…かなり」
「なんか蛍じゃないみたい」
「なんでですか」
「だってキモチワルイ≠ニか言いそうじゃん」
「言いませんよ」
「ええ? ほんとー?」
「怜奈さんにそんなこと思わないでしょ。…好きなんだから」

 ちょっとだけ怒ったような声。だけど彼が今口から放った言葉は、わたしにとって甘くて甘くてどうしようもない、愛の告白だった。

2019.04.08