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「月島ってさあ、いつも何聞いてんだ?」
「はい?」
「ほぼ毎日ヘッドホンしてるだろ!」
「シャッフルなんで特に」

 部活終わりに突然そんなことを聞かれて、煩わしく思いながら適当に返事をした。シャッフルってなんだ! なんて眉間に皺を寄せた西谷さん。とりあえず英語をしっかり勉強した方がいいと思う。そしてそんな話しは一瞬で流れて、次の話題へと移行していた。興味ないなら話をふっかけてくるのやめてほしい。

「ツッキー、今日嶋田さんの所寄ってくるね」
「ハイハイ」

 山口はいつものように嶋田さんのところに寄って行くらしく、至極申し訳なさそうにしていたが、別に気にしなくていいのにといつも思う。煩い部室を後にして、またヘッドホンをつけた。…ヘッドホンしてもまだ周りの声が聞こえるってどういうこと。動物園かよ、いい加減自重ってもんを覚えた方が良いんじゃないかな。

 音楽機器を操作すること数秒、癖のようにとあるバンド名のボタンを押した。スムースジャズというジャンルらしい、洒落た雰囲気の音が耳に響く。歌はない。ただ、サウンドだけを聴く音楽だ。ここ最近ずっとこれだ。ジャズと言えば外国のイメージが強いが、このバンドは皆日本人で、しかもまだ大学生らしいという情報を聞いた。世の中には色んな人がいるものだ。…うちのバレー部然り。

 澤村さん達三年生が卒業して、烏野バレー部は縁下さんを主将として新体制になった。新一年生も、去年春高に出た烏野を見たからかたくさん入ってきたが、僕より身長の高い奴はいない。もちろんというか、身体的な成長が見えない日向より高い奴は腐るほどいる。

「……はあ」

 山口が嶋田さんの所に行くというのは、つまり練習しに行くということだ。ホントよくやるよね。そう考えながら僕も今、兄ちゃんが所属している社会人バレーチームがいる場所へ向かっている。…一緒か。去年、バレーにハマる瞬間を体感してしまったのだからしょうがない。その原因になった黒尾さんや木兎さん達には少し感謝している。少しだけだ。

「…あれ?」

 バスに乗って奥の席に座ろうとすると、見慣れないiPhoneがぽつんと一つ置いてある。置いてあるというか、多分、忘れ去られている。保護フィルムも貼っていない、落としたら非常に危険な状態だ。…誰だコレ忘れたの。馬鹿じゃないの? とりあえず座ってiPhoneを手に取ると、どうしようかと思案した。そして結局バスの運転手に渡すのが一番だということに落ち着いて、立ち上がろうとした、瞬間だった。

 着信 : アカネ

 静かに掌で震えるiPhoneが、誰かからの連絡だとばかりに主張している。ていうかここバスなんだけど。でももしかしたら持ち主かもしれないと座り直してこっそり通話ボタンを押す。面倒なことになりませんようにと思いながら。

「もしもし、」
『それわたしのiPhoneなんです!』

 開口一番にそれってどういうこと。慌てふためいた女性の声に脳裏に蘇る面倒くさい=B電話口からは、『怜奈ーよかったなー!』という、恐らくこの電話の持ち主を馬鹿にしている声が聞こえてきた。…なんか人がいっぱいいる雰囲気がするんだけど。煩い。

「ああ、…バスにあったので運転手に預けて」
『そっ……それはちょっと待って! あの、君今どこに向かってるんですか!?』
「いや、だから渡しておきますから」
『いや!! その、ちょっとそれはすっごく困るっていうか…』
「…はあ?」
『お願い、好きな物なんか奢りますから! 今どこらへん!?』

 なんでそんな頑ななのか分からなかったが、あまりに必死すぎて体育館の場所を伝えてしまった。それを聞くなり、焦った様子で一方的に電話を切られてしまう。唖然としたが、運転手がこちらを見ていたのでそれとなしにiPhoneを隠して誤魔化した。…ああ、百パーセント面倒事に巻き込まれた気がする…とにかく、少し遅れるとだけ兄ちゃんには連絡しておこう。

2017.03.27