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「あ、Sだ。最近テレビよく出てるね」

 山口の声に、思わず肩が波打った。あんまり考えないようにしていたのになんなのお前。って言える訳もなく、山口の家にお呼ばれして夕飯を頂いてる口は、ずっともぐもぐと動かしたままだ。

 怜奈さんから連絡は、かれこれ2ヶ月くらい音沙汰なし。あの日、ライブ会場に行って、一緒にご飯を食べてから一度もだ。その前まではずっとメールか電話が来ていたし、その時だって随分忙しそうだったにも関わらず連絡がきていたから、今が忙しいとか忙しくないからとか関係ないと思う。…心当たりがあるとすれば、もう僕には微塵の興味もなくなったからとか、多分そういうこと。あっちは大人で、こっちは高校生。人気者と、凡人。そんなこと分かってた筈なのに、ふとテレビに向けた目は無意識に怜奈さんの姿を探してしまった。

 弄ばれたとかそんなことは思わない。もし僕が彼女のファンであったなら少々ラッキーと思うくらいはあったような気はする。でも、思わなくたって寂しいから。悲しいとも悔しいとも言いにくいこれが、恋をしていたのかって改めて痛感させられた。

『ーーで、今回の新曲はドラムの怜奈さんが作曲したということらしいですが』

 聞こえてくる声は、番組を進行している女の人と怜奈さん以外のバンドメンバーの声だったのに、急に彼女へ話を振られたせいで、耳が急に良くなった気がした。

 なんで、急に連絡寄越してくれなくなったの。
 あんなに楽しそうにしてくれてた癖に、そんなに突然興味なんてすぐなくなっちゃうモンなの。
 自分が子供だってことくらい分かってるけど、こっちだってあんたにそのくらいハマっちゃってたんだよ。…ふざけんなよ、ホント、この気持ちどうしてくれんだよ。どうしたらいいんだよ。

「…ツッキー?」

 掴んでいた肉団子がお皿に転がった瞬間、自分の指が少しだけ震えていることに気付いた。でもそれに気付いたのは山口も同じだったらしい。山口のお父さんもお母さんも、心配そうな顔をしてこっちを見ていた。

「蛍君、口に合わなかった?」
「あ…いえ、凄く美味しいです。いつも通り」
「そう、なんかずっと難しい顔してるから…あ、忠、今いつもやってるバラエティー番組やってると思うからつけて、」
「いえ」

 画面の向こうで、怜奈さんが眉を下げて何かを話そうとしている。僕に、じゃないことはよく分かっているけど、貴女の声を聞きたいんだよ。本当は画面越しじゃなくて、電話越しに。…本当は、隣で。

「この番組見ててもいいですか」

 自分が思っているよりも、ずっとずっと深いところで想ってるっていうのが悔しい。こんな面倒臭いことになんて関わりたくなかった。画面の向こうで、必死に言葉を探す姿はとても滑稽で、そして単純に惹かれる。

『今回は、…いつもはほとんどないバラードで、作詞はもちろんわたしではないんですけど、すれ違う2人の恋愛をイメージしてて』

 すれ違う二人の恋愛なんて、そんなの知らない。二ヶ月の間に、誰か良い人でもいたのか。あんな小さな画像の中でも、ぽわっと耳と頬の間が赤くなってるのが分かってイライラした。あー、もう。腹立つ。いつもなら美味しい山口のお母さんの手料理は、味が全く分からなかった。吐き出したいくらい気持ち悪い。…こんなにずっと怜奈さんのことを考えている自分が、気持ち悪い。


―――


「…えと、ツッキーはあの人とどうなってるの?」

 まるで核爆弾の投下である。夕飯をご馳走になって、その帰り。わざわざ玄関まで送りにきた山口がそう言った。何も言わなきゃよかったのに、こっちはさっきのことなんて忘れようと思ってたのに。ドカンと周りが全部廃になって消えたみたいに目が点になった。ついでに頭の中も。

「……あの人ってなに」
「あ、いやだから、あの、ほら、…来てたじゃん、女の子? からメール」
「それを聞いて山口はどうしたいの」
「どうってそれはもちろん、ツッキーの事応援したいと思ってるよ」

 ぐ、と握り締めた両手。どうやら僕のことを応援してくれているらしい。でもそんなのいいし、できることなら放っておいてほしい。そんなことで無駄な労力使わないで、もっと自分のことに使えばいいだろ。

「別にあの子とはなんでもないんだけど」
「? え? いやでもツッキー、最近メールしてないでしょ?」
「なに、僕の携帯盗み見てるの?」
「そ、そうじゃなくて! …ツッキーなんか、前みたいな元気が、ないから…」
「いつも通りだろ」

 怜奈さんに山口の爪の垢を煎じて飲んでほしいと今ほど思ったことはない。テレビの箱の中で、ヘタクソに笑って曲の説明をする彼女のことがちっとも消えてくれない。見なきゃよかったのに、見るから。バカみたいに、焼き付けようとするから。

 本当に怜奈さんといると最悪だったんだけど。もっと僕のこと見てくれればよかったのに、…って。それを言うことさえももう叶わないのだ。

2018.10.28