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「うーん…」

 最近、蛍に連絡するのを少し渋っている。スタジオで皆が集まってくる時間になるまでじっと椅子に座ってiPhoneを見つめたままでいることすでに数十分が経っていた。何度か画面をスワイプさせて、何文字か打ってみるけど結局消してしまう。…連絡したい。なんか話したい。とは言え別に話すことなんにもないけど。

「じゃあ恋とかしてる暇なさそうだね。折角の青春なのに」

 どうして渋っているかって、そんなのは考えればすぐに分かることだ。だって、わたしが好き勝手に連絡していると蛍が絶対困るから。

「…してないなんて誰も言ってないですケドね」

 彼には、好きな人がいる。もしかしたら今も好きな人を頑張ってデートに誘っている最中かも、むしろデートをしている最中かもしれない。そこでわたしが空気も読まずに「蛍〜ひま〜?」なんて連絡をしてしまったら、完全に馬に蹴られるやつだ。「なんで歳上の癖に空気もタイミングも読めないんですか」って、超冷えた目付きで怒られるやつ。
 無理。歳下にガチで怒られるとか勘弁して。大体そんな空気もタイミングも分かるわけないし!

「あれ、…怜奈、早いね」
「あっアカネさん、」
「そんなにスマホ眺めて誰かの連絡待ち?」
「いやいや、そんなんじゃないですよ〜」

 ぱたんと画面を裏に向けて、物凄い有名人臭を出している黒いサングラスをかけたアカネさんと向き合った。わたしが超好きなもろタイプの顔面と、抜群の歌唱力と音楽センス…そういうのを全部持っているアカネさん。あ、いや別になんていうか、好きなわけじゃないんだけど。結婚してほしい! とかそういう恋愛的なあれじゃない。

 そういえば、アカネさん最近ゆかりと連絡とか取ったりしてるんだろうか。というのも、彼はわたしの大学の同級生のゆかりのことを好きだったから。いやあそれは驚いたものだ、わざわざあのアカネさんがゆかりの為にスタジオにまで足を運んできたものだから。だけど彼女は、アカネさんを見事に振って、以前から好きだったという高校のバレーボールのコーチと付き合い出していたし、なんならもう既に超電撃結婚済み。人生ってのはほんと、一体何が起こるか全く分からない。

「…なんか凄い失礼なこと考えてない?」
「はっ!? いやっ全然!!」
「いや、いいよ。まさか失恋現場見られるなんて俺も思ってなかったし」
「ひい…アカネさん超エスパー…」
「やっぱりそのことだったんだ」
「げえっ…!」
「怜奈はゆかりと違ってすぐ顔に出るからね」

 ぼふんと備え付けのソファに体を埋めたアカネさんは、煙草をポケットから取り出して火を付けた。ふうと吐いた息から真っ白な煙がふわふわと天井へ昇っていく。なんとなくその顔を見ていたら…ああ、まだゆかりのことが好きなんだなあと思った。でもその隙間にも侵入なんてできないくらい、ゆかりとコーチも想い合ってる。だって結婚するくらいなんだもんね。しかも同棲報告から結婚報告まできっぱりとされてるし…まあ…アカネさんの立場で考えるとかなりしんどいか…。

「…あれだな」
「はい?」
「恋愛禁止とは言わないけど怜奈はその辺うまくやりなよ。…まあ、俺が言えたことじゃないか」

 はて。…はて? どういう意味? なんでいきなり恋愛というワードが出てきたのか些か謎だ。薄らと笑ったアカネさんに思わず首を傾げてしまう。今はそもそもわたしの話しではなかった筈だけど。

「恋愛禁止って某アイドルみたいですね。っていやいや、別にわたし恋愛なんてしてないですよ、ドラムが恋人です!」
「…ふうん」
「なんですかその怪しい目付き」
「いや、…違うんなら別にそれでいいんだけど」

 もやもやとする発言は余計に気になってしまう。わたしの、何が、そう思わざるを得なかったのか。

「あの、」
「あら? まだ二人だけ? 陸は?」
「遅刻だね。ちなみに穂波、君も遅刻だよ」
「収録押しちゃって。メールしたけど見てない?」

 ピアノ担当の穂波さんが到着してから、わたしの話はそのままないがしろにされた。違うんなら、それでいいけど。…違うんじゃないですかね。だって該当者が頭に出てこないんだもん。なんだか気にしたら負けな気がしてスティックバックを引っ掴んだ。先にスタジオ入ってますと一言部屋の中へ入ると、仮の音源を聞く為に黒いヘッドホンを頭につける。

 …ああ、そういえば蛍と初めて会った時、白のヘッドホン付けてたっけ。私も新しいヘッドホン買おうかなあ。

2018.06.25