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「にゃあ」
「今用意してるから待って待って」

 足首にぷにぷにとした肉球が当たっている。というか引っ掻いている。爪が出てないだけいいかと思っていたけど、なんというかこそばいからやめてほしい。少しずつ肉付きがよくなってきたマシロは、京治君と一緒に住み始めてから確実に太ったと思う。だって京治君すぐおやつあげちゃうんだもん。意外と猫好きなことはもう知っていたけど、前にも増してマシロに甘い。

「那津、こっちの掃除終わった」
「ありがとー。もうご飯食べれるから待っててー」
「今日の飯なに?」
「チキン南蛮とー大根とネギととろろ昆布でお味噌汁とー、あと鮭の混ぜご飯」
「なんか手が込んでるね」
「今日バイトなかったし、明日休みだったからつい。へへ」

 小さな袋から出したマシロ用の餌を用意し終わると、がっつくように食らいついている。なんでそんなにお腹減ってるのっていうくらい良い食べっぷりに困惑していると、後ろで京治君のお腹も鳴った。ぐうう〜って分かりやすく大きな音が聞こえた瞬間笑ってしまう。似た者同士だなあって思っていたら、早く食べようよって手を引かれた。まだ食器の用意とかしてないから待ってよ。…あ、部屋ぴかぴかになってる。

「明日も那津バイト休みだよね?」
「うん。今日明日は店休日だから」
「じゃあデートしよう」
「へ?」
「マシロも連れて行ける場所知ってるから」

 渡したお箸やお椀を手に、本当に嬉しそうな顔をする彼が可愛くて仕方がない。多分、可愛いって言ったって全然嬉しくないだろうけど、本当に今は可愛いんだもん。

 最近はどっちも忙しくて、わたしも京治君もマシロにあんまり構ってやれなかったから気にしてるのかな。そう考えるととても嬉しかった。もしかしたらマシロにとっては丁度良い距離感だったかもしれないけど、それは考えなくてもいいよね。嬉しさのあまりに抱き上げようとしたけど、「ご飯食べてるんだから絶対触るな」って言われた気がしてやめた。でもマシロも連れて行ける場所ってどこだろう? 同伴可能のカフェとか、そういう所かな。

「…調べてくれたの?」
「二人で行きたいのはもちろんだけどマシロは那津の家族でしょ。…まあ俺も家族だと思ってるけど」
「え、…ぅぁ、かっかぞっ……いやっ…いやいや、マシロね、マシロの話ね‥」

 家族だと思ってるけどって、なんかとても恥ずかしい言葉を聞いた気がする。多分京治君はそういう意味で言ったんじゃないってことくらい分かっているのに、勝手に頬っぺたが熱くなった。だって、どっかのドラマのプロポーズみたいなんだもん。まるで「結婚するのが前提」の話みたいに、そう聞こえるんだもん。一瞬でもそうやって解釈した自分がとても恥ずかしくて、慌ててお茶碗に炊き込みご飯を装った。テンパっているのを誤魔化そうとしすぎていたのか、もりもりに盛りすぎて京治君が笑っていた。

「…ほんと、わっかりやすいよね」
「な、なに、」
「いや。…将来そうなるといいなとは思ってるけど。それは大学卒業してからかな」

 もりもりにしたお茶碗が手から無くなって、机の上に置く音がした。京治君の思う未来には、少なくともわたしが隣にいるっていうことなのかな。ルームシェアを始めた頃に買った食器やコップは、いつの間にかネットで安く買い揃えたお揃いのデザインの物になって、もう既にこの空間に馴染んでいる。そうやって二人の物がここに増えていくのだろうか。いつか、そういう時が来るまで、もっとたくさん。

「那津?」
「…わたし前のアパート燃えて彼氏と住んでるんだってこと、お姉ちゃんに言おうかな」
「…」
「お母さんとかは、…あの、流石にいきなりは卒倒しちゃうと思うから、時間をかけて言う…けど…お姉ちゃんになら…」
「うん」
「?」
「良いと思うよ。少しずつでいいから。そうやって俺とのことちゃんと話そうって思ってくれてるのがすげー嬉しい」

 ぎゅうぎゅうに抱き締められた瞬間、ちゅうっと口付けられて炊き込みご飯の味がした。…あれ、ちょっと待って、いつの間につまみ食いしたの。こっそり向こう側を覗いてみると、もりもりにしたお茶碗のてっぺんがごっそりと欠けていた。お腹空いてて我慢できなかったって真剣に言われても、行儀が悪いことに変わらないからね。

「にゃあ」
「あれ、マシロ? ご飯食べ終わっちゃった?」
「…前から思ってたけどマシロは俺達の邪魔して楽しんでない?」

 まだあるじゃんって餌皿をチラ見した京治君は、わたしの脛辺りに引っ付いて離れないマシロを腕に抱えて持ち上げた。にゃんにゃん鳴き声をあげて暴れているけど、わたしはマシロが京治君のこと好きなのよく分かってるよ。だって、他でもない、わたし達のキューピットだもんね。

「あ、井芹先輩からメールだ」
「なんて?」
「明日遊ぼーって」
「…行くの?」
「まさか」

 すみません。明日彼氏とデートなんです。そう送信して笑った。分かりやすいのは京治君も一緒だよ。そして数秒後に突然着信の音が鳴って気付いた。そう言えば私井芹先輩になんにも話してなかった。彼氏が出来たことも、京治君のことも。

「出てもいい?」
「あとで甘やかしてくれるならいいよ」

 またキスを落として、首を撫でながら離れていく彼の腕の中で、マシロが楽しそうに暴れている。お姉ちゃんの前に、まず井芹先輩に話すのが先になりそうだ。

「…あ、もしもし」
『あっ那津ちゃん! 今のメールどういうこと!?』

 「やめろ痛い」と怒られているマシロがわたしに振り向いて、嬉しそうに「にゃー!」と大きく鳴いた。やっぱりわたしも、今日くらいちょっとだけ多めにおやつあげちゃおうかな。

2018.07.11 本編完結