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 大きな男の子一人を抱えてお家に戻るのは中々至難の業だと思う。それに、吐きそうとか気持ち悪いとかそんなことを言われたらもうどうしようもないよ。とんでもなく恥ずかしかったけど、もうしょうがない。近くのホテルに入って鍵を取って、エレベーターに乗って。そうしてついたそこで京治君をベッドに下ろして一息ついた。外観の怪しい感じなんて全くないけど、ここは紛うことなきラブホテルだ。だって入った瞬間の内装はそうだし、偶々すれ違った別のお客さんもちょっとにやにやしてたもん。違うんです、わたしはそういうことをする為に入ったわけじゃなくて!

「那津…?」
「はいお水。えーっと…あとは何がいいんだっけ…」

 酔いからかあんまり焦点の合っていない目付き。体を起こしてちょっとふらふらしているけど大丈夫そうだ。うわ、顔赤い。

 京治君はふらふらしてて気付いていなかったと思うけど、部屋を探し歩いてある他の扉の向こうでは、随分恥ずかしい声が聞こえていた。恥ずかしくて今は思い出したくもない。そういう所なんだと改めて自覚させられてしまう。ここにいる理由は、京治君がお酒を飲んじゃっただけだから。うん。何度もそう頷いて彼の背中をさすった。

「…那津」
「はーい、なーに」
「いつまで、かくすの」

 舌ったらずで不満そうな声が部屋に響いて、わたしはどきっとした。「いつまで隠すの」。それはつまり、わたしと京治君のことを? ということでよかったかな。…やっぱり、嫌なのか。でもそれは京治君がわたしみたいなのとって言おうとした瞬間に、眼鏡の彼の声を思い出して飲み込んだ。

「好き同士なんでしょ」

 好き同士。…そうだよね。堂々とできないなんておかしいよね。だって、付き合ってるんだもん。例えば逆の立場で考えてみたらやっぱり少し悲しい気がして猛烈に後悔みたいなものが襲ってきて、ぶわって目の前が滲んだ。自信がないこと、とても綺麗な女の人が京治君を好きなんだということ。でもさ、わたしも聞きたいんだよ、なんでわたしだったのかなって。

「なんでなくの」
「やだ、ごめ、」
「…なきたいのはこっちだよ」
「わかんないの、」
「なにが?」

 京治君は、なんでわたしのことが好きなのか分かんないから。声に出したら結構すっきりして、後から後からと言葉が溢れてくる。もっと綺麗な人に告白されたんでしょとか、だから余計にとか。ぐしゃぐしゃしたものを一気に吐き出して、ぐすぐすと鼻をすすった。

 わたしの家が火事になってなかったら、こういうことにもならなかったよね、じゃああの人の家が火事になってたら? どうだった? 
 
 汚い物を吐き出すのを見て、一体彼は何を思ったかは分からないけど、わたしなら多分引く。

「…しょうもないなあ、那津は」
「しょうもな、って! しょうもなくないもん!!」
「那津じゃなかったら家に上げてないよ」
「え……。え?」

 にこ。先程の様子と随分違う。舌ったらずだった言葉もいつもの京治君に戻ってるし、ふらふらしてた体も目も、しっかりとしたいつもの京治君だ。…ちょっと待って、まさか。赤い顔して酔ったフリ、してた? しかもあの全員が纏めて、京治君が酔ってるっていうみたいに計って…!!

「ひ、っ酷い!! 聞いてないそんなの!」
「当たり前じゃん。言ってないんだから。…大体こっちは好きでしょうがないっていうのに」
「わ、わたしも好きだもん!!」
「いや俺の方が」
「わたし!!!」

 …って、なんの喧嘩をしているんだ。ガンガン好き好き言いすぎて恥ずかしい。思わず馬乗りになった彼の上からどいて、すみませんと正座した。しゅんとしたわたしの頭上では堪え切れなくなった京治君の笑い声が聞こえてくる。「なんだ」って「俺の思い違いだったんだ」って、安心したような声。

「那津はもしかしたらあんまり俺のこと好きじゃないかと思った」
「へっ」
「逃げるし、嫌がるし、照れ隠し半分かなと思ってたけど、人に言いたくないってことは俺と付き合っていうの知られたくないくらい嫌なのかなとかさ。まあでも違ったみたいだけど」
「違うよ。…わたしだって分かんなかったんだもん、もっと綺麗な人はいるのになんでわたしなのかとか、京治君はわたしで恥ずかしくないのかとか」
「恥ずかしいってなに? 那津はいつもすぐ照れるし考え込む癖があるけど、いつもにこにこして笑顔が可愛くて。火事になった時もマシロのこと探して必死になって。…マシロも那津のこと好きなんだって分かったら、なんかそれ分かるなって、思った」

 ふわ、と笑った京治君が、わたしの頬っぺたを包んでキスをした。なんにもないのに、それを可愛いという京治君は変だ。だけどなんの変哲もないそんな理由を嬉しいと思ってしまうわたしだって多分変。きゅーって心臓が握り潰されてなくなっちゃいそうだ。

「那津のことちゃんと好きだよ」

 うぐ。そんなこと言われたら、なんにも言えなくなっちゃうよ。ぼすんと柔らかいベッドに押し付けられたら、ぺろりと涙を唇で拭われた。しょっぱいねって何度も嬉しそうに舐めて、また口をぺたりと這わせてくる。ぞくぞくと背中に這うのは恐怖か、期待か。

「…ここには止めてくれるネコちゃんいないけど、もういい?」

 恐怖とか、もうそんな訳ない。…そんなつもりでこんなところにいないというのは訂正しておこうかな。もういいから、…なんでもいいから、わたしにも貴方が好きだってことを伝えさせて。

2018.07.11