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「お」
「あれ、黒尾先輩?」

 いつもこの授業にはいなかった気がするけどなあ。そこ、隣いい? なんて空いたわたしの隣を指差して笑った黒尾先輩に、置いていた鞄を避けてどうぞと譲る。まだ先生は来てないけど、周りでは予習を始める人が多いこの授業。本当、真面目な人ばかりだ。残念ながらわたしはそのカテゴリーには入らないから、最近人気のパンケーキをiPhoneで検索してみたり、グループラインで友達と話していたり。

「この授業取ってたんですか?」
「いや、ちょっと見学に」
「へー。ドイツ語に興味あるんですね」
「つーか暇だっただけなんだけどさ。那津ちゃんいてラッキーだったわ」

 暇だから授業見学するとかあんまり聞いたことないんだけど。しかもここ、先生熱血なのに大丈夫かなあ。iPhoneで検索していた服をそのままに教科書を出していると、ぬっと黒尾先輩の頭が覗き込んできた。おお、可愛いじゃん。好みだわー。そんな声に男の人はこういうシンプルな感じのも好きなのかなあと頭の中でメモをする。最近化粧も服も吟味するようになってきて、可愛くなれるように奮闘中だ。…全ては赤葦君の為である。

「最近那津ちゃんちょっと変わったよな」
「え? なんか変わりました?」
「化粧の仕方が前より色っぽくなったっつーか」
「え」
「服も前は森ガールっぽかったじゃん? 最近そういう…なんだっけ、大きいパンツとぴたっとしたトップスとか、ちょっと大人っぽいの着るようになってるし」

 結構男の子ってちゃんと見てるもんなんだな。自分の意思で変えようとしていたことを他人に気付いて貰えるのは嬉しい。だけどまさか黒尾先輩に森ガールだと思われていたとは。そんなつもりはなかったんだけど。ぷふっと少しだけ噴き出すと、なんだよってわたしの頭を少し小突いた彼はまたiPhoneの画像欄に目を向けた。

 この間頭の上のお団子を作ってくれた綺麗な人は、細身で肌の白い素敵な女性。パンツもスカートも、きっと全部着こなしてしまうと思う。あんな風にわたしもなりたい。そう思ってしまったのはやっぱり赤葦君のせいで、赤葦君のおかげだ。

「に、似合ってませんか…」
「いや? めちゃくちゃ良い感じ」
「ほ、ほんとですか!」
「つーかそれは赤葦に聞いてみろよ」

 え、なんで赤葦君? ぱちくりと目を見開いていると、いやいや、俺がお前らの雰囲気分かんねーわけなくね? ってけらけらと笑う声が聞こえてきた。

「付き合ってんだろ、赤葦と」
「え…あ…」
「女の子が急に可愛くなんのは大概恋したか男が出来たかのどっちかだって。それに最近赤葦とよく一緒に学校来てるみたいだしな」
「見てたんですか!?」

 黒尾先輩の発言に驚いて思わず大きな声を出すと、周りの視線が一斉にこちらを向いた。しまった、すみません…。一気に縮こまって小さくなっていると、ぶひゃひゃとまた黒尾先輩が笑った。誰のせいで大きな声が出たと思っているんだ。黒尾先輩は、この間初めて私と赤葦君が一緒に来ているのを見ただけだと思っていたのに。

「付き合ってること隠してんの? 別に隠さなくてもいいのによー」

 いやまあ、確かにそうなんだけど。…そもそも隠そうとしているのは一緒に住んでることだから。でも、赤葦君は結構モテるし、付き合ってなかった時は自分の為にも彼の為にも隠してた。今はその流れでなんとなく隠してる。あとはわたしが赤葦君に相応しくないような気がして、周りに言えずにいるのだ。それを赤葦君にも強要している…というわけじゃないけど、結果わたしが言わないから、彼の口も閉じているわけで。

「…黒尾先輩だったら言いたいですか?」
「まあ、俺のだって言いたいよなあ」
「そうですか…」
「赤葦は多分逆だと思うけど」
「?」
「好きな子との秘密とか可愛い所とかは自分だけが知ってれば満足、多分そんな感じ。だからどんどん可愛くなってる那津ちゃん見てるのはすげー焦ると思うよ〜?」

 にひひと怪しく笑った黒尾先輩は、わたしの心情を読み取るみたいにそう言った。そ、そうなのかな? 上手く言いくるめようとしてない…? そのうちバレることだろーし、俺はそれまで黙っとくわ。ガラリと扉が開いて先生が入って来た瞬間から口を閉じてしまったが、まるで面白い玩具を見つけたみたいにこちらをずっと見ていた彼は、わたしの頭をぐしゃぐしゃに撫で回す。那津ちゃんの心配はいらねえ心配だわって一言だけまた口にして。

2018.02.27