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 あれから一週間、ナギから連絡はない。てっきり付き合っているか付き合ってないかを確認してすぐに連絡するだろうと思っていたのに。ちょっと拍子抜けしている。
 わたしの休みもあと二日、しかもこの二日間は東峰さんとのデート。けれどまさかナギと会うよりも早く東峰さんと会うことになるとは思っていなかった。笑顔か大泣きかは置いておく。…けど、いや、決して連絡がこないことに嬉しくないとかじゃなくて、少し心配だな、というか…。

「なまえさん? どうかしました?」

 ちゃんとした二人のデートは初めてだ。だけどついこの間はしゃいで遊んだばっかりだったから、今度は東峰さんをわたしの部屋に招待して、二人でのんびり過ごしているところだった。ちょっと見たかった映画をレンタルして、大きなサイズのポップコーンとジュースを購入して、映画館っぽく電気を消す。お互いの距離は密着していてドキドキしたけど、そういうことはまた夜に、なんて。

「なにか飲みますか?」
「あ、じゃあ、同じものもらおうかな…」

 そういえば旭さんはなにか聞いてないのかな。西谷さんからナギとのことについて。映画はそろそろ終わりに差し掛かっていたので、聞くなら今のタイミングだと追加のジュースをコップに流し入れた。

「ナギと西谷さんってどうなったか知ってます?」
「西谷とナギさん?」
「あ、いや……なんか、両想いらしかったんですけど、付き合おうとかどうとかは言われてないらしくて……」
「えっ」

 ポップコーンを掴んだ指が止まる。と同時に、ころりと床へ落ちた。ちょっと汚してしまったことに不味いと思ったのか、旭さんが少し焦りながら「すみません」と謝ってくる。わたしそんなことで怒らないのに。近くにあったゴミ箱へと落としたポップコーンを投げ入れると、あわあわと頭を下げる様子につい笑ってしまった。

「なんか聞いてます?」
「いや…俺は付き合った! って聞いてたんですけど…」
「ええ…なんにも伝わっていない二人…やっていけてるの…?」

 どうやら二人の解釈に相違があるみたいだ。西谷さんは「付き合っている」し、ナギは「なんにも言われてない」と言う。果たして西谷さんの言葉が足りなかったのか、それともナギが話を聞いていなかったのか。…どちらも有り得そうなのがなんともいえないけれど、ナギの「話を聞いていない」パターンな気がしてならなかった。そうだとしたら西谷さんは非常に不憫極まりない。けれど旭さんは「多分大丈夫じゃないかな」と一気にコップの中身を飲み干した。…旭さんが大丈夫って言うなら、大丈夫なのかな。

「西谷とナギさんってちょっと似てますよね」
「それ分かるかも。猪突猛進、っていうか、素直なところ」
「そうそう、だから惹かれたんでしょうね」

 エンドロールが流れ始めたのと同時に、旭さんが可笑しそうに笑い始めた。昔からそうなんですよと彼は一緒のチームだった頃の話しをしてくれた。その中で一番びっくりしたのは西谷さんと「喧嘩をしたこと」だ。いや、旭さんはきっと喧嘩を仕掛けた側ではないだろうし、言い合いになるだなんてことも予想できなかったので実際どうだったのかは分からないけれど。

「…んー」
「まだなにか気になりますか?」

 それよりも、なんだかわたしと旭さんの距離が以前とそんなに変わってないのがすごく気になっちゃう。付き合ってまだ一週間もないし、しょうがないことなのかもしれないけれど。
 半分話に耳を向けながら、半分は聞かずに余計なことを考える。でもこれは多分余計なことなんかじゃない。「なまえさん」だなんてまどろっこしい呼ばれ方も敬語も、すぐに変えてほしい。とは言えそれってわたしも悪いんだろうから、きっとこっちが変われば呼んでくれるだろうな。…旭さんなら。

「あの。…じゃないや。ねえ、敬語やめない? ちゃん付けも」
「え、それは…急には無理、と言いますか」
「大丈夫、わたしもやめる…から、あさひ」

 さっきまでナギの心配をしていたのに、すっかり自分たちの空気に早変わりだ。だってなんか、西谷さんの気持ちがきちんと分かったら安心しちゃって。
 旭がわたわたしている隙にこっちはちょっとその気になってしまって、「そういうことは夜に」なんて考えていた思考がぽーんとどこかに消えてしまった。だって可愛いんだもん。しどろもどろで慌てている旭はわたしが知っているどんな人よりも可愛くて、誰よりもかっこよくなる。
 知らない人ばっかりなんだろうなあ。勿論、彼のそんな姿なんて、誰も知らなくていいんだけど。

「…まだ夕方の五時ですけど」
「分かってるけど、だって…」
「ご飯食べてからにしましょう。…なまえ、夜は長いから」

 敬語はやっぱりすぐに直らないけれど、頑張ってくれた成果がすぐに見えた。シアーシャツのボタンを一つ外して、するすると膝の上に乗っかってキスをすると、ぎこちなくもう一度合わせてくる。この間とは別人みたい。…と思ったのがわたしの間違いだと理解するまで、あと数秒。

2021.08.31




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