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 カチン、とグラスとグラスが重なる音。目の前には頼んだ料理と東峰さんと西谷さんが並ぶ。なんだか不思議な気分だ。こうやってナギも含めて食事を囲むなんて思ってもみなかったから。

 テーマパークで結構食べた気がするのに、結局美味しそうな料理を前にすると関係ないらしい。流石にこれだけ食べたら明日以降の体重が気になってしまう。けど。…いや、折角の有休だしこんな時くらいは無礼講ってことでいいじゃんか。食べなかったらお肉に失礼だし、ここを調べてくれた東峰さんにも失礼だ。という訳で、隣でしっかり箸を掴んでいたナギと同様にわたしも箸を掴む。リブ、ハラミ、牛タンの三種の肉盛りプレートに牛のたたき。サラダや冷やしトマト、大好きな枝豆や肉味噌冷奴といったお酒によく合う肴も注文済みだ。

「そういえば夕君と東峰さんって付き合い長いの?」
「あれ、言ってなかったっけか? 俺と旭さんは高校の先輩後輩! んでもって旭さんは高校時代はバレー部のエーススパイカーなんだぜ!」

 エーススパイカーってなんだっけ。…いや多分すごいやつなんだけど、エースって付くぐらいだからすっごい上手な人なんだろうな。そう考えて思い出すのは初めて観に行った試合のことだ。すごくかっこよかったな。今の柔和な雰囲気を纏った姿は封印されて、全く違う顔をしてた。もっと見てみたいって欲が出ちゃったくらいだもん。

 同じ高校で同じ部活に入っていたという二人は、なんと春高の舞台にまで立ったことがあるそうだ。流石にわたしだって春高っていうのがどんなものかくらいは知ってる。つまりバレーボールに無頓着であるわたしでさえも知ってるくらいなのだから、とっても大きな大会だ。日本中から激戦を潜り抜けたごく僅かのチームだけが参加を許される大会に出られるなんて本当にすごい。その頃の話をしている二人はとっても楽しそうで懐かしそうで、ちょっとだけ羨ましくなった。それに比べてわたしの高校生活はごく平凡。部活はやってなかったし、昔から服が好きだったから必死にバイトをしてはショッピングに出かけてお気に入りの服を見つけて、どうしても欲しい服は取り置きしてほしいってごねて、またバイトをしての繰り返し。そのことに後悔とかそういうのをすることはないのだけれど、その部活の青春ってやつはちょっとくらい経験してもよかったかもな、なんて。

 四人で話す度に食が進み、お酒が進む。時折西谷さんが東峰さんを弄ると(多分弄ってるつもりはないんだろうけど)、恥ずかしそうに照れたり焦ったり。テーブルの上から食べる物が全て無くなった頃には二十三時を過ぎていて、周りのお客さんも随分出来上がってしまった人が多くなっていた。

「気付かないうちにいい時間になっちゃいましたね」
「え〜やだ〜! 帰りたくない〜いや〜」
「いやそんな駄々捏ねられても」
「なら二軒目! カラオケ行くか!」
「さんせー!」
「ナギ酔い過ぎ。西谷さんもあんま甘やかさないでくださいよ」

 あんまり甘やかしすぎるとナギはどんどん勘違いする。勘違いしてもいいんだったらその辺は大人だし構わないけど。西谷さんがそんなつもりがなくて、ただ楽しい気分だけで連れ回すのはあまりよくない気がした。ナギだけ好きが盛り上がっちゃうのはどうかと思うし。

「…甘やかしてないっすよ、このタイミング逃したくないですし」

 だけど、どうやらわたしの心配は余計なお世話だったみたいだ。先程までの楽しそうな西谷さんの雰囲気はわたしの前でだけ何故か一変して、真剣な目がじっと射抜いていた。…ちょっと待って、今の今まで全然そんな感じだしてなかった癖に、もしかして西谷さんナギのこと気になってる? って感じなの?

「えー…っと…?」
「ちゃんと帰りはホテルに送り届けるんで、ナギさんのこと連れてっちゃっていいですか」

 ナギは酔ってるせいか西谷さんの言ってること全然理解なしてないっぽいけど大丈夫かな。…いやいいか。あとは大人なである二人に任せればなるようになるはず。わたしは別にお呼びじゃない。

「…じゃあ…よろしくお願いします…」
「やったあ!」

 いやあんた今の会話の意味絶対分かってないでしょ。だけど隣でにこにこしているところを見ると、細かく切り分けて話すことが躊躇われてしまって溜息だけを吐き出した。さっきまでの真剣な顔はどこへやら、西谷さんはナギに普段なにを歌うのかを聞き出していて楽しそうである。ちらりと東峰さんの顔を見たら、多分わたしと同じような顔をしていた。どうやら西谷さんからはなんにも聞いていなかったみたいで、「俺すごい鈍い奴だったんだなあ…」ってまるで他人事みたいに目をぱちぱちさせている。

「西谷さんってああいう男! みたいな顔もするんですね…吃驚した…イケメンだわ」
「西谷はかっこいいんですよ、昔から」

 友人(後輩と言うべきか)のことを褒められて嬉しそうにしている東峰さん、貴方もわたしからしたらかっこいいし可愛いんですけど、そのことには気付いてないんでしょうか。盛り上がる二人を他所に、わたしと東峰さんは苦笑しながらまた二人で乾杯した。

2021.03.12




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